弱虫ペダル 長編 | ナノ
縮まる距離(…?) (1 / 3)






───神代梨央目線───

自転車競技部を見に行ってから1週間が経ち、東堂から更に連絡が来るようになった
今も机に置いている携帯が振動しながら着信を知らせる
画面には“東堂”の文字

『…あいつも懲りないわね』

携帯を取り、通話する事無く切った
今日は日直の仕事でいつもより早い時間に来ている
だからまだ教室や学校にはそんなに生徒が居ない
遥もゆいもまだ学校には来てないし、新開や福富くんは朝練だろうし
どうする訳でもなく、教室に入る前に自販機で買ったブラックコーヒーの缶を開けた

「梨央ちゃんではないか!!」

聞き覚えのある声が聞こえて廊下を見れば、さっき電話を切った東堂だった
今来たところなのか、鞄を持ったまま私の前の席に荷物を置き 椅子を私の方に向けて向かい合わせになった

『なんであんたがここに?』

「今日 日直なのでな、朝練は休んだのだ
それよりも!なぜ電話に出てくれんのだ!」

『用事があるなら、直接話に来ればいいでしょ?
それに毎回電話してたら、通話料が大変でしょ』

「梨央ちゃん そんなに俺の事を心配して…!」

『通話料金を払ってるあんたのご両親の方を心配してるのよ』

そんなやり取りをしながら私は開けた缶コーヒーを一口飲んだ

「おぉ!ブラックとは梨央ちゃん 大人ではないか!」

『ブラックしか飲めないのよ』

私の言葉に なぜだ? と首を傾げて聞いてきた東堂に、周りに聞かれた時と同じように言った

『甘いものが嫌いなのよ』

「コーヒーでいう微糖のものか?」

『そうよ、正確にはチョコレートとか…ケーキとか…』

私の言葉に そうなのか! って驚いた声をあげる
仕方ないのよ、嫌いなものは嫌いなんだから

「そーかそーか、それはそれで良いではないか!」

『……は?』

東堂の意外な言葉に、私は驚いた
それに対して東堂は どうしたのだ? と首を傾げる

『…女らしくないでしょ?甘いものが嫌いって』

「そんな事はないぞ?甘いものが食べれない女子が居ても当然ではないか!
皆 違うのだからな!」

そんなはっきり言われた事がなくて ワッハッハッ と笑う東堂をただ見てた
さらにそう言ってくれた東堂に対してほんの少しだけ嬉しいとも思った

『…あんたって変ね』

「ムッ… 変とは失礼な」

少し拗ねたみたいに言う東堂に思わずクスッと笑った

『そうやって言い切る東堂の事…、好きよ』

その瞬間 東堂の頬が林檎みたいに紅くなっていたのが何故かわからないが、私はコーヒーをまた飲んだ
その時に私の携帯が振動した
LANEでゆいからメッセージが来たため、返事を返す

「おお俺も!梨央ちゃんの事が好きだ!」

『あら、ありがと
とりあえずコーヒー飲んで落ち着いたら?
ブラックは飲める?』

何に対してかわからないけど動揺している東堂に飲みかけの缶コーヒーを差し出した
東堂は私の返事に何度も頷き、缶コーヒーに口を付けて飲んだ
その間、視線を携帯に向け LANEで返事を返していく

「…はぁ」

『落ち着いた?』

視線を向けると、落ち着いた東堂に 感謝する と御礼を言われた
今時、感謝するって言われる事なんてないわよね なんて心の中で思った

「おおっと、忘れるところだった
体育祭が終わってから毎年恒例の自転車競技部の合宿がある」

『あら、そうなの』

遥からもLANEが来て、遥とゆいに個人で返信している
遥、今から家出て間に合うのかしら?

「サポートをしてくれる人物が居るからこそ、選手がより集中して練習が出来る…そう思わんかね?」

『人が足りないの?なら何人かに声かけとこうか?』

「そういう意味ではないのだ!梨央ちゃん!」

「あれ?尽八がうちのクラスに居るなんて珍しいな」

東堂と私に声をかけたのは朝練終わりの新開で おはよう と挨拶をした
どうやら生徒もだいぶ来ていたらしい
そしていつも居るはずの福富くんが居ない事に疑問を持った

『福富くんは?』

「監督と話してるから、後で来るよ」

『あら、そうなの』

新開に返事をすると、東堂が 梨央ちゃん! と名前を呼ぶ

『さっきの話ならまた聞くわ、それよりそろそろ戻らないと授業始まるわよ』

携帯の画面に表示された時間を東堂に言えば いかん!戻らねば! って言いながら鞄を持って立ち上がる

「梨央ちゃん!コーヒーをありがとう!」

『構わないわ、まぁ 私の飲みかけだったけどね』

「それじゃあ おめさん達、間接キスしたのか」

私と東堂のやり取りを聞いてた新開の一言に東堂がピシッと固まった
私は そうね と返事を返す

『東堂が落ち着くようにコーヒーをあげたのよ
まぁ 私の飲みかけしかなかったんだけど』

そう言って東堂も飲んだ私の缶コーヒーを新開に見せ、そのまま飲んだ
それを見た東堂がまた林檎みたいに真っ赤に頬を染め そのまま私にずいっと顔を近付けた
あ……、やっぱり東堂の目 綺麗で好きだわ

「……梨央ちゃん、ほ…他の男にそれをしてはならんからな?」

『…?
なら東堂だけならいいの?』

「えっ……!?……あ、…梨央…ちゃんがそれでも、…い いいのなら」

『東堂がそうして欲しいのなら、別にそれでもいいけど
それより、また落ち着くためにコーヒー飲む?』

東堂の額を人差し指で軽く押して少し距離を開け、飲んでた缶コーヒーを差し出す
あ、でも時間ギリギリね

『東堂 その缶コーヒー、私のでいいならあげるから早く教室に行きなさい
授業に遅れるわよ』

「なっ!?な ならんよ!これは梨央ちゃんのコーヒーではないか!」

『あんたがそれ飲んで落ち着くならいくらでもあげるわよ
それより、私のせいで遅れられても困るから早く行きなさい』

だがしかし…! とかごちゃごちゃ言っている東堂を気にせず、教室から押し出した
今度何か御礼を持って改めて伺おう!そ…それからそういう事を他の男にしてはならんからな! って言いながら自分の教室に向かう東堂を見送り、自分の席に着けば 隣の新開が声をかけた

「神代さん、神代さんは尽八の事 どう思っているの?」

『尽八?…尽八って東堂のこと?
へぇ、東堂の下の名前って尽八だったのね』

「………尽八、かなり大変だろうな」

新開が苦笑いしながら言った言葉の意味がわからなかったけど、私は携帯の電話帳から東堂の連絡先を開いた
そして“東堂”から“東堂尽八”に名前を変えた









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