もしも魔法学校に通っていたら 3/3

*寿嶺二と薬草学





『ねぇ 嶺二』

「んー?どうしたの?」

『次の時間、嶺二と同じ薬草学の授業だよね?』

「そうだよ」

『確か温室に行かないといけないんだよね?』

「そういえば、先週の授業終わりに先生がそう言ってたね」

『…温室ってどこにあったっけ?』

今日 合計で何度目かの質問をする私
いきなりの言い訳だけど、私はいつも真剣なんだよ?
本当にわざとじゃないんだよ?

「じゃあ また僕ちんが連れて行ってあげるね」

『嶺二、いつもありがとう』

嶺二は文句も言わず、いつも私を連れて行ってくれる
私は昔から極度の方向音痴
いくら地図を見ながら歩いたって1人で目的地に着いた事はほとんど無い
周りの皆にわざとじゃないのかと疑われるほどの方向音痴
でも私はいつでも真剣なの
私だって好きで方向音痴に産まれてきたわけじゃない
でも彼だけは違うかった

「いいよ、紫奏ちゃんが方向音痴って事はちゃんと理解してるからね」

笑顔で私に言う嶺二は幼馴染み
嶺二だけが私の方向音痴を理解してくれている
私にとっては凄く助かっている
ただでさえ学校内は広いから、こんなところで迷子になれば 確実自室に生きて戻ってこれる自信がない
それだけ私にとって移動するという行動は命がけなのだ、真剣に

「あっ!急がないと授業に間に合わなくなっちゃう!
紫奏ちゃん 急ごう!」

時計を確認した嶺二はすぐに私の手を繋いで 温室まで走り出した



『…本当にごめんね、嶺二』

「ほんとに紫奏ちゃんが謝る事はないよ
それに、僕は紫奏ちゃんと一緒に居れる事が嬉しいんだし!」

例え授業に遅れた罰でもねっ! と笑いかける嶺二
あの後、走ったけど間に合わず 少し遅れて温室に入った私達だったけど、薬草学の厳しい先生に2人で温室の掃除をするように言われてしまったのだ
温室は薬草学で調合するのに必要な薬草がたくさん育てられているから、掃除もかなり一苦労なのだ
…私はいつも嶺二に迷惑をかけている
でも笑顔で何も言わない嶺二に申し訳ない気持ちと不安な気持ちになる
本当はウザがられているのでは?とか、面倒な奴だなとか思われているのでは?と考えてしまう

「…紫奏ちゃんっ!」

『ほぅっ!?』

嶺二に名前を呼ばれて顔を上げた瞬間、両手で私の頬を両側から押され 私の唇は うー っと突き出すような形で変な声を出してしまった

「…またなんか考えてたでしょ?」

私の瞳を見つめながら言う嶺二に思わず瞳を逸らしてしまった
…バレてる

「あっ!目逸らした!
やっぱり何か考えてたんだ〜、紫奏ちゃんは内心が見透かされた時にすぐに目を逸らす癖があるもんね」

私の頬から手離し、今度は私を抱き締めながら言う嶺二
え、私ってそんな癖があったの!?
短いながらも何年か生きてるけど、そんな癖がある事 初めて知ったよ、私

「優しい紫奏ちゃんの事だから、きっと僕に対して申し訳ない気持ちがあるんでしょ?」

その言葉に私の体はピクリと小さく反応する
すると嶺二の少し笑う声が私の頭上から聞こえてくる

「図星なんだ
紫奏ちゃんは図星だと体が反応しちゃうもんね」

『えっ、そうなの?』

少し見上げながら言う私の言葉に そうだよ と微笑みながら言う嶺二
一体 いつからそんな癖があったんだろ、全然知らなかった
そんな事を考えている私とは逆に 優しく抱き締めてきた嶺二

「紫奏ちゃんはほんとに優しいから 僕ちんに申し訳ないって思っているんだろうけど、僕ちんは一度も紫奏ちゃんの事を面倒とか思った事はないよ?」

私の考えていた事を当ててしまう嶺二にも驚いたが、一度も私を面倒と思った事がないと言ったその言葉に驚いた

「紫奏ちゃんが方向音痴のせいで人に凄く気を遣っている事は見ていてわかったよ?
でも、一生懸命 周りに迷惑がかからないように努力している紫奏ちゃんを僕は知っているから」

そう言ってぎゅーっと抱き締めてくれる嶺二に私は泣きながら同じようにぎゅーっと抱き着いた
私の心は嶺二の言葉によって救われたような気がする
いや、違う
嶺二の言葉に救われたんだ
泣きながら抱き着いている私を落ち着かせるために頭を撫でてくれる嶺二

「だから僕の前ではいつも通りの紫奏ちゃんで居てね」





その後、嶺二と私は前より一緒に過ごす時間が多くなった
そしてまた後日 嶺二に前よりももっと笑顔になったと嶺二に言われて、新たな感情に気付くのはもう少し先の話






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*黒崎蘭丸と魔法生物飼育学





『………』

「………」

『……うん、何書いていいかわかんない』

「お前なぁ…、レポート書き始めて5分しか経ってねーだろ」

蘭丸の言葉に だって〜 と机に肘を付く私とそんな私に軽くため息を吐く蘭丸
蘭丸と私は明後日までに提出しないといけない魔法生物飼育学のレポートを夕食終わりの食堂の空いてる席で書いている
2人1組のペアになり、レポートの題材にする魔法生物を決め 飼育方法や生息地などの調べた事をレポートにまとめて提出する事になっているのだ
資料はたくさん揃っている
だが問題はどうまとめてレポートに書いたらいいのかがわからない

『…ねぇ、蘭丸〜』

「………」

え、集中と言う名の無視ですか?
下書きとは言え、すらすらと書いていく蘭丸

『……蘭丸〜』

「………」

『……らんら〜ん』

「………」

『……蘭ちゃ〜ん』

「………」

…ダメだ
今日はやけに集中している
提出期限が少ししかない事もあるから、普段以上に集中しているのだろう
蘭丸に任せっきりもさすがに悪いと思った私もレポートに意識を向けた



「…っ……!…紫奏っ!」

『……んっ…』

蘭丸の声が聞こえ 私は机に突っ伏していた体を起こした
…………ん?突っ伏していた?

『………私 寝てた?!』

「あぁ 爆睡だったな」

蘭丸の言葉に私はショックの余り固まった
蘭丸に任せっきりはダメだと言ってレポートを書いていたはずなのに、いつの間にか寝ていたなんてっ!

『…あっ!レポートは?!』

「完成して提出しに行った」

完成はともかく、まさか提出までしに行っているとは思わず 更に放心状態になった
何してんのよ、私
寝てた挙げ句 レポートも提出も任せっきりって人としてどうよ
いや、ダメに決まってるじゃん 私

『…ごめんね、蘭丸』

「あ?気にしてねーよ」

『えぇー、嘘だー、気にしてるでしょ?』

「だから気にしてねーよ」

いつも通りの蘭丸だけど、さすがに今回は申し訳ないと反省する私

『……ごめんなさい』

「…はぁ、だから気にしてねーっつってんだろ?」

そう言いながら私の頭を彼なりの優しさで撫でられた
表情を見た感じも怒ってはいないみたい

「それに、お前の寝顔も見れたし寝言も聞けたから それでチャラにしてやるよ」

…うん?
寝顔はともかく…、寝言…だとっ…!?

『私 寝言で何言ったの!?』

「教えねーよ」

『蘭丸っ!』





それから数日後、レポートの点数は良い点数を貰ったが 私が寝言で何を言ったのかを蘭丸は教えてくれなかった
ただ好きな女が寝言で自分の名前を呼んでくれたという事実を胸の内にしまったのは本人だけの秘密






+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
*美風藍と非魔法族学





『いろんな文化があるんだね〜』

「魔法を使えない人達はその人達の文化があるのは当たり前でしょ?」

『そうだけど、意外と知られていない事が面白いよね〜』

「それより、手を動かしてくれない?」

藍の言葉に はーい と返事をしながら非魔法族学のノートを写す私とノートを見せている藍は図書室に居る
実は魔法学会の手伝いをしてほしいと先生に言われ、2週間ほど学校に居なかった私は同じ授業で同じクラスの藍に非魔法族学のノートを写させてもらっているのだ

『藍、これってどういうことなの?』

「それ?それは」

なんだかんだで質問したところをわかりやすく答えてくれる藍
ほんとは優しいのにツンツンしてるから、他の女の子が影で藍を見てるんだよね
本当は凄いモテるのに



『…魔法を使えなかったら どんな生活をしてたかな?』

「何、急にそんな事言い出して」

『だって私達は魔法があるから 料理も洗濯も簡単に済むけど、魔法が使えなかったら自分達の手でするんだよ?』

「…珍しいね、紫奏がそんな事を言い出すなんて」

私の発言に藍が興味深そうに聞いている
その後も私と藍は魔法が使えなかったらどうするかなどと話し合っていた



『でも、やっぱり私は魔法が使えてよかったと思う』

「は?さっきまで魔法を使えない人の長所を話していたのに」

確かにさっきまで魔法を使えない人達は自分達の文化を繁栄させて生活しているのが凄いと熱弁したばかり

『そうなんだけど、でも魔法を使えなかったら 藍に会えなかったかもしれないでしょ?』

「…例え魔法が使えなかったとしても、今みたいに使えていたとしても、僕は必ず紫奏を見つけるから」





その後、顔を紅くする私と 手を動かして と言いながらも微笑んでいる藍の姿が図書室にあった
そして2人が手を繋いで図書室を出たとか…






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*カミュと魔法史





『…わからない』

「そんな事もわからんのか」

『わからないものはわからないんですー』

そんなやり取りをしている私はカミュに連れられてきた食堂で魔法史を教えられている
普通は教えてもらっていると言うはずだけど、今日一日の授業が終わって寮に戻ろうとしたらカミュに魔法で引き寄せられてしまい 今から魔法史を教えてやる といきなり言われて今に至る

『カミュも急だよ〜、いきなり魔法で引き寄せるのやめてほしいわ
驚きすぎて心臓が飛び出るかと思ったもん』

「勝手に心臓が飛び出していようが俺には関係ない
そんな事よりも、俺が直々に魔法史を教えてやっているのだ
貴様はさっさと手を動かせ!」

うわー、この人さらっと酷い事言ったよー
まぁ、カミュだから別に気にしてないし 私が魔法史を苦手としている事も知っているからこうやって教えてくれる
カミュってなんだかんだで優しいのよね

「貴様…!さっさと手を動かせとっ…!」

『わぁーかったから〜、そんなに怒ると綺麗な顔がしわだらけになるよ?』

「っ貴様…!」

さすがにこれ以上言うとやばそうだから、カミュをなだめて魔法史に集中する事にした



『…いいな〜、私にも一口ちょうだい!』

「貴様が取りに行けばいいだろ」

『…ケチ〜、コーヒー持ってきてくれたのは嬉しいけど そこは普通ケーキも付いてるでしょ?』

あれからカミュに出された問題の答えを教科書から探したりしている間、席を立っていたカミュがトレーに自分の紅茶と私のコーヒーを乗せて持ってきてくれたのだ
普段のカミュからしたらあり得ないから、素直に ありがとう と御礼を言った
だけど問題はここから
そのトレーを机に置いたカミュだけど、そのトレーには紅茶とコーヒーとは違うものが乗っていた
なんとも豪華さが引き立つ大きな苺の乗ったショートケーキ
私の分もあるかと思えば トレーに乗っているケーキの数は1つ
カミュの性格を考えたらあのケーキは間違いなくカミュのケーキ…

『私も食べたい〜』

私の隣に座りながらケーキを食べるカミュをじーっと見る

「貴様はさっさと手を動か」

『隙ありっ!』

食べようと一口分のケーキの刺さったフォークを持つカミュの手を取り、そのまま私の口に入れた
カミュは驚いて目を見開いていたけど、私は甘いケーキが口に広がり 幸せに満ち溢れていた

『ん〜〜っ!おいし〜!』

カミュの恐ろしい視線を感じるけどあえて見ない
だって怖いもん、それに今は口に広がるケーキを堪能する方が優先に決まってる

「…紫奏」

カミュに名前を呼ばれたと思えば、いきなり視界いっぱいにカミュの顔
無理矢理 顔を向けられた私だが、カミュの表情に今度は私が驚いた
さっきまで恐ろしい目付きで見ていたのに、今度は何かを企んだような目付き

「…動くな」

後頭部をがっちり押さえながら言われても動けるわけない
そんな事を考えながらもカミュの顔が近付いてきて…

『…っ!?』

唇……ではなく、唇の端にカミュの見かけによらず柔らかい唇が触れた
そしてぬるっとした何が私の肌に触れて離れたカミュの顔は満足気の表情

「貴様が私のケーキを食べた罰だ」





その後、顔を真っ赤にして顔を逸らす私と 私の顔を見ようと覗き込むカミュの姿があった
もちろん、その日 魔法史の勉強が進む事はなかった






もしも魔法学校に通っていたら
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まさかのシリーズでST☆RISHとQUARTET★NIGHTを攻略した管理人です←
先輩達もですが、書いた事のないキャラもいますのでご了承ください←
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!




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