もしも魔法学校に通っていたら 2/3

*一十木音也と変身術





『変身術?』

「そう!」

午前の授業が終わり、お昼を食べ終え 一度寮に戻ろうとしたところで音也と遭遇して今に至る

『なんで変身術なの?』

「…実は俺、ちゃんと変身できないんだ」

少し落ち込みながら答える音也
学年は一緒だけど、変身術の授業が違う先生だから音也がどれだけ変身術ができないのかがわからない

「皆 紫奏ちゃんは変身術が得意って言ってたんだ
だからお願いっ!変身術教えて!」

両手を合わせて お願い! とお願いしてくる音也
いやいや、まず私 変身術が得意なんて一言も言ってないからね
ただちょっとコツを掴んで すんなり出来ただけだからね
でも必死の音也を断るのも気が引けるから、音也に変身術を教えることになり 寮の共同スペースに移動することになった



『………』

「うわ〜!また失敗したぁ!」

何度も失敗して項垂れ始める音也の髪からは黄色に茶色の縞模様の入った耳が生えている

『…音也は何に変身したいって言ってたっけ』

「ん?トラ!」

ニカッと笑いながら答える音也
いやいや、もっと可愛らしいものなのかと思ったのにまさかのトラなの?
確かにトラはネコ科だし、可愛いけど…

『…なんでトラなの?』

「カッコイイでしょ!」

また二カッと笑う音也
音也らしいといえば音也らしいかも

「それに……、俺が紫奏を守りたいから…」





その日、私と音也の顔が紅かったのは言うまでもない
そして音也の変身術は、頑張った結果 トラの耳と更に尻尾が生えるようになったものの、トラに変身は出来なかった
これはある意味 才能だと思う






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*聖川真斗と魔法薬学





「少し休憩するか」

『や…やっと休憩だ〜』

真斗から休憩の言葉が出たと同時に机に項垂れた
魔法薬学は私の苦手な分野で、前回の試験が良くなくて再試験を受ける事になり 真斗に教えてもらっているんだけど…

『む…難しい…
なんでこんなに覚えないといけない事が多いの〜!』

「それぞれの組み合わせがあるからな
これに関しては覚えるしかない」

確かに真斗の言う通り
魔法薬学は材料の組み合わせによって効力が変わる
だからちゃんと組み合わせを覚えて使わないといけない
だけど…

『…それでも薬草を煮出してから使うとか、粉々に砕いてからじゃないと効力が変わる木の実とかよくわからない何かの目玉とか……
いっその事さ、大きなお鍋に必要な材料をポーンと放り込んだら はい!完成! ってなったらいいのに』

「そうだな
今の魔法薬学は時間がかかってしまう事が難点だ
紫奏の言う通り、もっと簡単に人の為の魔法薬が作れるようになるといいな」

項垂れた状態から上体を起こしてまで言う私のだらだらとした愚痴にも優しい眼差しで答えてくれる真斗
なんて優しいんだ、そりゃモテるに決まってる
お昼休みとかも、女の子からキャーキャー言われるわけだ
そんな人が私の幼馴染みなんて凄すぎるでしょ

『…はぁ』

「どうした?」

『うーん…、私も真斗みたいに頭が良かったら 真斗と並べるのに』

そう言ってまた項垂れた
幼馴染みという事もあるけど、好きな人だから横に並びたいって思うわけで…
でも真斗が頭良いのは知ってるから、真斗と並べる様になるにはもっと勉強しないと無理
ってか再試験を受ける時点でダメな気がする
すると頭に温かくて優しい手が乗せられ、顔を真斗の方に向けるとまた優しく微笑まれた

「無理しなくていい
誰かと横に並ぶ為に必要な事は勉強だけじゃない
それに俺がいつも並んで歩いていたいと思うのは紫奏だけだ」





その後も真斗がわかりやすく教えてくれたおかげで、魔法薬学の再試験は無事終わった
そして真斗との幼馴染みから発展した関係が始まった






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*四ノ宮那月と呪文学





「紫奏ちゃん!一緒に復習しましょう!」

『もちろん いいよ!』

呪文学の授業が終わり、早速声をかけてきたのは同じ学年で仲良しの那月
そのまま私達は一緒に教室を出た



「紫奏ちゃん、この呪文はどの時に使うのですか〜?」

『この呪文は“物を浮かせる”時の呪文だよ』

さっきの時間、那月と呪文学の授業だったんだけど 次の授業では小テストをすると言われ、お昼休みを使って中庭のベンチで復習しているの

「“物を瞬時に移動させる”呪文はこれでしたよね〜」

『うん、そうだよ』

お昼のサンドイッチを食べながら順調に復習が進む
だけど、問題は突然発生した

『この呪文は“物や人を自分から遠ざける”時に使う呪文だよね』

「違いますよ〜
その呪文は“物や人を自分に引き寄せる”時に使う呪文ですよ〜」

『あれ?その呪文はこれじゃなかったっけ?』

「逆ですよ〜」

さっきまで順調に復習していたのに、そこだけは2人共 ノートに書いている事が違うかった
確かここの説明をしている時、ちょっと騒がしかったからわからなかったんだよね

「この呪文、実際にしてみますか〜?」

『…じゃないとわからないよね』

こうして私達はあまり人の居ない学校の裏庭へと移動した



『それじゃあ始めるよ!』

裏庭に着いた私達は一定の距離で互いに向き合っていた
そして私が杖を振ろうとした時、鈍臭い私は足を滑らせてしまった

「紫奏ちゃんっ!」

確かに裏庭は少しだけ下り坂になってるけど…
とか考えながらグッと目を閉じ、転けるであろう衝撃に耐えようとした………が

「っ…紫奏ちゃん!」

体が浮き 何かに引き寄せられて誰かに抱き締められた
ゆっくり目を開けると裏庭の景色が見え、視界の端に那月の髪色が見えて向けば 私を抱き締めているのは那月なのだと確信した
…って、今 那月に抱き締められてるの!?

『な…那月っ…ごめ』

「…良かったですぅ」

那月の安心したような声に私は驚いて 那月の顔を見た
那月の顔も安心したように にこぉっと笑いかけてくる

「紫奏ちゃんが怪我する前に引き寄せる呪文を言ったんですけど、間に合って良かったです〜」

『…ありがとう』

ニコニコと言う那月にお礼を言った
さっきの那月の言葉からすると、那月の言ってた方の呪文が合っていたみたい

『どうして那月はさっきの呪文が引き寄せる呪文だと思ったの?』

「さっきみたいに紫奏ちゃんを守るのに、凄く必要だと思ったから授業の時に覚えたんですよ〜
紫奏ちゃんを守る事ができて良かったですぅ」





次の呪文学の小テストは2人共 満点を貰った
一緒に復習したのもあるけど、最後の問題は那月が守ってくれたからすぐに覚えたのは言うまでもない






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*一ノ瀬トキヤと防衛術





「はぁ…貴女という人は」

『だからなんでこの魔法じゃないの?』

「何度も説明したではないですか」

そしてさっき聞いた説明をまたするトキヤに納得がいかないと食いかかる私
全ての授業が終わり、放課後の時間の今 トキヤに赤点を取ってしまった防衛術を教えてもらっている……のだけど

『いや、納得できないよ!
じゃあこの時の防衛術はどれを使うの?
この防衛術でも防げるじゃん』

「確かに貴女の言うとおり その防衛術でも大丈夫ですが、その防衛術よりこの防衛術の方が」

教科書を指差しながら質問をする私に何個かの答えと、それぞれの説明をしてくれるトキヤは凄く勉強しているのだとわかる
でもなかなか納得できない私は、なんでもトキヤに聞いてしまう
今回の防衛術だって、先生にどれだけ説明されても理解できず トキヤに聞いてしまっているのだ

「……と、こんなところですかね
少しは納得しましたか?」

『この防衛術を使った方が時間短縮で使える事はわかった
でもこの防衛術は』

私達の勉強(主に私の質問攻め)はまだまだ続く



「…おや、もうこんな時間ですか」

『あ、本当だ』

時計を見れば、夕食の時間になっている
食堂に行かなければ今日の夕食が食べれなくなる

『うーん… まだ納得できないとこがたくさんある』

「たくさんですか…
もっと貴女は自分で調べた方がいいですよ」

トキヤの言葉に むぅーっと頬を膨らませた
そりゃ、トキヤからしたら面倒なのはわかってるけどさ

「…まぁ、試験範囲でしたら そこまで追求しなければ貴女でも勉強できるでしょう」

『…だって気になって追求しちゃうんだもん』

「確かに、何かを追求する貴女の姿勢は長所ですが 防衛術の事なら試験範囲だけ勉強したらいいんですよ」

『え、なんで?』

試験範囲を勉強してたら追求しちゃうじゃん
でもトキヤがこんな事を言う事が珍しくて、教科書を片付けて席を立つトキヤの腕を掴んで聞いた

「…私が紫奏を守り抜くからですよ
紫奏を守るために防衛術は必死で勉強していますから、今みたいに気になる事があるのなら答えますよ」





その後、防衛術について詳しく先生に問う私の姿はなかった
むしろニコニコと嬉しそうにしながらトキヤに質問する姿の方がよく見られるようになったと言われた






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*神宮寺レンと天文学





『今日は冷えるね』

「そうだね、今日は空気が冷たいから 星も月も綺麗に見えて天文学の授業には最適だろうね」

今日の天文学の授業は屋外という事で、レンと集合場所になっている中庭に来ていた
そして天文学は月や星の観察をするため、夜に授業が行われる
気温も暑い夏から冬に向けて少しずつ冷えてきているのもあり、七分袖の服を着て ローブも羽織っているが冷える
だが、先生がすぐ来たため 屋外での天文学の授業が始まった



「紫奏、少しだけいいかい?」

天文学の授業が終わってすぐレンにそう言われ、2人で校舎の中で1番高いところにある教室に来た

『どうしたの?』

「まだ紫奏と月を見ていたかったんだ
でも授業の間も寒そうに震えていたからね、屋内にしたんだ」

レンが私の様子を見ていた事が嬉しくて、内心で喜びながらも ありがとう と答えて窓に近付いた
夜の教室は暗いが、綺麗な満月の光で教室が照らされる

『…綺麗だね』

「紫奏も月に負けないぐらい綺麗だよ」

『レっ レン!』

「この方が、温かくていいだろ?」

窓の側で見ていた私を後ろから抱き締めてきたレンの行動に驚いた
確かに寒いと思っている私からしたら温かくてとてもありがたい
だけど私の鼓動がばくばくと激しく鳴る
伝わりませんように…っ!

「…紫奏は可愛いね
そんなに緊張しなくても、変な事はしないよ」

レンの言葉に真っ赤になりながら見上げれば 優しげに笑うレンの顔に見惚れてしまった
月明かりのせいなのか、もともとかっこいいレンの顔が月明かりで照らされて いつも以上に綺麗

『…レン、綺麗だね…』

「…ははっ、男は綺麗より かっこいいって言われた方が嬉しいんだよ?」

『…うん……、凄く綺麗で…凄くかっこいい』

レンの言葉にそう答えれば 私の顔を前に向かせて、私の首筋に顔を埋めてギュッと抱き締めてきた
でもレンの耳が紅くなっているのが見えて顔を見ようとしたけど 見なくていい って言われてしまった





その日から、普段も2人で過ごすようになった
そして夜は2人で夜空を見ながら寄り添って 天文学の事を話しているのは2人だけの秘密






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*来栖翔と飛行訓練





『なんで翔のくせに飛べるのよ!』

「翔のくせにってどういうことだよっ!
それに、こんなもんはコツだって言ってんだろ?」

『だぁかぁらぁ、そのコツを教えてって言ってるのに翔が説明してくれないんでしょ!』

「俺のせいかよ!」

太陽も昇っていない明け方から外で話して(言い合って)いる私と翔は学校のグラウンドに居る
同じ学年の中で1番飛行が上手い翔に全く飛べない私は教えてもらう事になったのだ
試験が近い為でもある
確かに翔は運動神経がいいから、本人も飛行訓練の授業が1番楽しいと言うほど
そう思うとなんだか悔しい

『…むぅー』

「…はぁ、俺に教えてもらうのが嫌なら部屋に戻るけど?」

『すいません、教えてください
じゃないと私 飛行訓練の試験が確実0点になっちゃうから』

「わかった、わかったから女が簡単に外で土下座するな」

土下座をしながら頼む私に苦笑しながらも手を差し伸ばして立ち上がらせてくれた翔に、やっぱ優しいなー って思いながら膝や足に付いた砂を払ってもらっていた



「やばっ!そろそろだな!」

『ん?何が?』

あれから翔に箒での空の飛び方を教えてもらっていたんだけど、腕時計を見てそう言い始める翔がわからず 首を傾げた

「紫奏!来いっ!」

『えっ!?』

箒に跨がっていた私を箒から降ろす翔
そして自分の箒に跨がって私の腕を掴み、翔の前に横向きで箒に座らされた私の頭はこの状況をまだ理解できていない

「俺に捕まってないと落ちるからな!」

『えっ えぇぇ〜!!?』

私の返事も待たず、そのまま上空に飛ぶ翔の首に腕をまわして落ちないように抱き着いた
翔は平気そうに飛びながら何処かに向かう
飛ぶ時、確かバランスが大事って先生に言われた覚えがある
初めて箒で2人乗りしたけど、翔の箒は凄くバランスが取れていて なんだか安心感がある
バランスだけじゃないのかもしれない
抱き着いている翔は見かけに寄らず、体が引き締まっていて筋肉がある
なんだか、男なんだと理解させられる
でも男である前に翔だから安心感があるのかも

「着いたぜ!前、見てみろよ!」

そう言われて翔が見つめる先を見ると、山と山の間から太陽が昇ってきた

『…すごい』

「だろ?
俺 朝と放課後は飛行の練習しててよ、その時にこの朝日を見て 紫奏に見せたいと思ったんだ」

そう言った翔を見れば 二カッと笑う翔に笑いかけて ありがとう とお礼を言った

「それにこれからも紫奏と朝日を見たいから、飛ぶ練習 一緒に頑張ろーぜ!
お前が飛べるようになるまで、練習に付き合うから!」





その日から、朝と放課後は翔に付きっきりで教えてもらい 試験前には飛べるようになった
そして毎朝、あえて翔の箒に2人乗りして 朝日を見るのが日課となった






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*愛島セシルと占い学





「ワタシには、さっぱりです…」

『うーん…』

困り果てたように教科書とノートを見るセシルと、こちらもどう説明しようか考える私
理由は簡単
セシルにとって占い学は難しいということ
魔法は得意のセシルだけど、占い学は難しい言葉が多いこともあって セシルが占い学の小テストで低い点数を取ってしまったのだ
このままでは試験も危ないと思った私は、セシルに教えてあげると声をかけた
占い学は得意分野だから教えてあげる事ができると思ったんだけど……

「紫奏、それはどういう意味デスか?」

『それはね』



「紫奏!この言葉は何と読むのデスか?」

『これはね』

まだカタコトのセシルからしたらどの言葉も難しいみたいで、なかなか本題に入れない
とくに専門的な言葉も入ってくる占い学だから、余計に難しいのだろう
他の人でも占い学の授業単位を落としてしまう人がいるぐらいなのだから

「…紫奏、ごめんなさい」

『えっ?』

セシルの急な謝罪に私は理解できなかった
なんでセシルがそんな申し訳なさそうにしているのか

「ワタシ…、紫奏に迷惑かけてます
……紫奏を困らせてます…」

そう言いながら申し訳なさそうにするセシルの頭に手を伸ばし、そのまま手を置いて撫でた
今度はセシルが困惑した顔で私を見る
でも私は微笑んだ

『セシルは困らせてないよ
セシルがいつも一生懸命勉強している事だって知ってる、だから私はセシルの手伝いがしたいって思ったんだもん
セシルが理解できるまで、何度でも説明してあげる
だから一緒に頑張ろ?』

「…ありがとう、紫奏」





その後も2人で一緒に勉強をした結果、セシルは試験を無事乗り切れた
そして私自身の試験の点数も上がり、2人で勉強をする事が多くなった






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