▼ 嫉妬とガトーショコラ (3/3)
『お疲れ様 ユウ』
部活を終え 剣道の防具を外している俺にタオルと飲み物を持ってきた詩穂
授業が終わった後、剣道部で主将をしている俺を体育館の観覧席から見学するのが日課だという詩穂は部活が終わると必ずタオルと飲み物を持ってきてくれる
「あぁ
すぐに着替えるから観覧席で待ってろ」
『はーい』
タオルと飲み物を受け取った俺は詩穂が返事をして観覧席に戻っていくのを見届けてから更衣室へと向かった
「待ったか?」
『いーやー』
着替えを終えてから詩穂の待つ観覧席へ行った
そして紙袋2つ置かれた隣に詩穂は座って俺を待っていた
紙袋2つの中身は俺と詩穂がバレンタインで貰ったチョコが入っている
「はぁ… 何度見ても凄い量だな」
『仕方ないよ バレンタインなんだし』
そう言いながら苦笑する詩穂の隣に俺は座った
普段ならすぐに体育館を出るのだが、鍵を締めるのはどうせ俺だからという考えと 他の奴らにチョコを受け取れと追い回された事もあって詩穂と2人で過ごせなかったからという思いもあったから、すぐに出ようとはしなかった
「バレンタインは…やっぱ好きじゃねぇ」
『お昼休み、ラビと一緒にと女の子に追い回されてたもんね』
俺の方に体を向けて俺の頭を撫でながら言う詩穂
こいつは俺の頭を撫でるのが好きらしい
俺も詩穂だから気にしない
「そういうお前も囲まれてただろ」
そう言うと確かにそうだねと言う詩穂
その中に紛れていた男を竹刀の餌食に出来なかった事がある意味 心残りだったけどな
『でもその時、ユウしか見てなかったけどね』
その言葉を聞いた瞬間 俺は詩穂を見た
だが詩穂は立ち上がって観覧席の手すりを掴みながら俺に背を向けていた
『私 こんな気持ちになった事ないからわからないけど…
なんだかさ…ユウを追いかけてる女の子を見て、ちょっとモヤってしたのよね』
俺はあいつの話に口を出さずに最後まで聞く事にした
詩穂がこんな事を言うことが滅多に無いからだ
『追いかけられてるユウに抱き着いて、ユウは私の彼氏だって言いたかったけど…そんな事出来ないし、周りに人が居たからいけないし…
なんだか凄く寂しくて…そのままユウが誰かに取られちゃいそうに思って…、それでね』
「…馬鹿」
俺はそう言いながらあいつを後ろから抱き締めた
声に元気が無くなっていって、あいつの体が震えているのがわかったから
泣きそうになっているのがわかったから
『ユ、ウ…?』
「お前がその時に思った感情を何て言うか知ってるか…?」
あいつの耳元でそう聞くとわからないと答える詩穂に俺は小さく耳元で囁いた
「…それを“嫉妬”って言うんだ
誰にも取られねぇし、取られるつもりもねぇよ
…お前以外にな」
『…うん』
後ろから抱き締めている俺の腕に手を添えながら返事を返す詩穂
嫉妬って感情も知らなかったなんて本当に天然か抜けてるだろ
けどそんなところも可愛いと、何より嫉妬していたことが嬉しいと思ってしまう俺はかなり重症なのかもな
『あ、あのさ…』
「…なんだ?」
『…や、やっぱいいや』
落ち着いたかと思えば今度は詩穂の様子がおかしい
さっきの嫉妬していた事を話す時点から少し様子が変だったが、今は緊張したような素振り
「なんだよ」
『な、何でも、な、ない』
「…噛みすぎだろ」
詩穂の様子が可愛くて思わずふっと笑って言うとうるさいって照れながら言う詩穂をギュッと抱き締めて、詩穂の首筋に顔を埋めた
「……何?」
そしてもう一度と聞けば 言わないと離さないだろうと観念した詩穂は緊張しながらもゆっくりと話し始めた
『き、今日…バレンタインだからさ…
……ユウに、ガトーショコラを作ったんだけど…、い、いっぱいチョコ貰ったし、いらないよね』
その言葉に俺は固まった
料理は作るけど滅多にお菓子作りをしないって言ってた詩穂が俺だけに作ったガトーショコラをいらないって言う訳ねぇだろ
「やっぱりお前は馬鹿だな」
その言葉になんでと言いながら俺を見た詩穂にそのまま唇を重ねた
少ししてから離せば、驚いた表情をした詩穂が俺を見ていた
「他の奴が作ったチョコや菓子なんか 正直どうでもいい
俺はお前の作った物しか興味ねぇ」
思った事を言えば 頬を紅くする詩穂にまたふっと笑った
「それで、それは今くれないのか?」
『ちょ、ちょっと待って』
そう言いながら自分のスクールバッグを開けて探す詩穂の隣に俺はまた座った
そして小さな袋をスクールバッグから取り出し、俺の隣に座った詩穂は俺にその小さな袋を渡した
「開けていいか?」
『う、うん…』
緊張した詩穂の頭を撫でてから 俺は小さな袋から綺麗に包装された箱を取り出した
そして箱の包装を綺麗に取って 箱を開けた
そこにはカップに入ったガトーショコラが入っていて、表面は粉砂糖でハートの形が作られていた
俺はそのガトーショコラを取り出して 一口食べた
『甘いのが嫌いなのは知ってるから ビターチョコで作ってみたんだけど…』
不安そうにした詩穂がそう言いながら俺の様子を伺っている
「…甘くねぇから美味い」
そう言うと良かったと言いながら安堵のため息を吐く詩穂の頭を撫でた
今年もバレンタインが来た
けど、俺の事で嫉妬をする彼女と
彼女の作る俺だけの甘くないチョコがあるなら
バレンタインが来てもいいかと思った
嫉妬とガトーショコラ
(来年も再来年も俺だけに作れよ)
(いつまでも作ってあげるけど、バレンタインになる度に嫉妬しちゃうかもしれないよ?)
(そうなったらお前が安心するまで抱き締めるだけだ)
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久々の神田でした!
そして夜中に寝かけながら書いたからズタボロ←
一応学生の設定です!
わかりにくいですが←
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
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