▼ 淡色アルデンテ

年が明けると神社に行っておみくじを引く、という行為はわたしの中で"日本人なら当たり前"という認識だった。高校生になった今でもその当たり前は続いて、おみくじの結果を年が明けて最初に会う友人などに話して聞かせるというのもわたしにとって当たり前のことだ。し、友人のおみくじの結果を聞くのもまた然りだ。しかし高校三年目の冬、わたしの中の当たり前はあっけなく覆されることになった。

「おみくじ、ですか」

「そう!おみくじ!毎年引くでしょ?わたし去年は大吉だったんだけどね〜、今年はなんと小吉。なんか微妙で喜んでいいのやら?ってかんじ」

「はぁ」

後輩の赤葦はいつも眠たそうな顔をしている。と最初は思っていた。起きているんだが起きていないんだか分からないと。だけど最近は微々たるものではあるが表情の変化がわたしにも分かるようになってきたから一緒にいる時間って大事だ。今はちょっと…呆れたような顔をしている。木兎に対応するときと似ていた。

「赤葦は?」

「はい?」

「だから赤葦の今年のおみくじは?」

赤葦は少し考える素振りを見せてから、今年はおみくじを引いていないと言った。

「えっ!?なんで!?」

「そんなに驚くことですか」

どうやら赤葦は親戚の集まりやら年が明けて間もなく始まった部活の練習やらで忙しくで今年はろくに神社にも行っていないらしかった。年明け早々忙しかったもんだから今さらお参りだとかおみくじもなあなあになっしまったとのことだ。確かにうちの部の練習は忙しいけど…三が日は休みだったし今日だって午後からなのに。赤葦の親戚か、想像してみたら何故だか皆眠たそうな顔になってしまって笑いそうになった。

「じゃあ行こう」

「は、」

「行こうおみくじ…とお参り」

「行こうってこれから部活…」

「赤葦がこんなに早く来るの木兎のスパイク練に付き合うからだって知ってるよ、木兎から赤葦ちょっと借りるだけだから」

あ、眠そうな瞼が珍しく見開かれている。赤葦はマネージャーをなんだと思っているのか。わたしはちゃんと君たちのこと見てるし知ってるからね。どうせ赤葦は練習後にでも木兎に付き合わされるだろう。部としての練習時間までは余裕がある。近くに小さいけど神社あるんだよ、赤葦の手を掴んでグイグイと引っ張った。



△ ▽ △



お参りを済ませたわたしと赤葦。わたしは早速赤葦に今年のおみくじを引かせた。赤葦がおみくじの箱に手を入れて中身をごそごそとしている間、「はいはい」と言いながらわたしの無理やりともいえる行動にいつも付き合ってくれるこの後輩は実は私のことが好きだったりして、なんて調子に乗ってみたりした。

「どうだった?どうどう?」

「今開けますから、あ、」

「ん?」

赤葦の手が止まった。視線はわたしの頭あたりに注がれてからすぐ上にのぼった。「名前さん」赤葦が空を指差して呼ぶからわたしも上を向いた。

「う、わぁ…」

初雪だ。ちろちろと花のように雪が舞う。今日は一段と寒いと思っていたけどまさか雪が降るなんてことは考えていなかった。赤葦はわたしの頭にかかった白い雪を見て気付いたんだろうか。

「ゆきだ…きれいだね、赤葦ー」

「そうですね」

小学生のようにはしゃいで喜ぶことはなくなったけどわたしは雪が好きだから実はすごくわくわくしている。東京にも降るんだね、わたし雪だいすき、積もるかな、積もったら皆と雪合戦したいなぁ、赤葦の前だというのにぽんぽんと言葉が飛び出た。うん、でも。例えばこれが同級生と一緒だったり、他の後輩と一緒だったらこんな雪ごときではしゃいでる自分はさすがに隠したはずだ。部活のメンバーだったら特にだ。雪合戦したいーなんてことはきっと木兎が言うから、わたしは付き合ってあげるーなんて言うんだ。変なところ素直じゃないって木葉に言われたことがあるけど認めざるおえないかもしれない。でも不思議なことに赤葦を前にすると気が緩む。楽というか自然体でいられる気がした。隣に立つ赤葦を盗み見ると赤葦は少しだけ口角が上がっていた。赤葦も雪好きなのかな、そしたらお揃いだ。


「赤葦は美人だねぇ」

ひらひらと舞う雪の中で赤葦の真っ黒な髪と無機質だけどあたたかみのある表情はとてもきらきらして見えた。赤葦は雪が似合うと思った。当の本人は寒さで鼻先が真っ赤になっていたから、今度はかわいいなと思った。赤葦は返事をしないでマフラーに顔をうずめる。


「あっ、おみくじ、赤葦、はやく!」

気を取り直しておみくじの結果を見るように急かすと赤葦の薄い唇から大吉、という言葉が飛び出た。

「良かったね大吉。今年の赤葦はラッキーボーイだ」

嬉しい。自分が大吉を引いても嬉しい。友人が引いてももちろんおめでとうと言える。だけど赤葦の大吉はそれより何より嬉しかった。へらっと笑うと赤葦はまた見たことない表情をする。今日の赤葦は表情豊かかもしれない。


「手強そうですけど今年もよろしくお願いしますね」

「なにが手強いの?今さらだけど今年もよろしくね!」

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テーマ「人外ファンタジー」
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