04 | ナノ

お昼の鐘が外で響いているのを、私は自分の部屋のベッドの中から聞いていました。いつもならこんな時間までぐだぐだしていたら早く起きなさいと親に叱られるのだけど、今日は日曜特売デーで夫婦揃って朝から出掛けているらしいのです。そう、今日は日曜日。黄瀬くんの練習試合の日。1時に始まるって言ってたから、もう学校に来て試合の準備やウォーミングアップをしていることでしょう。私は寝れもしないのに布団をかぶります。今日は一日家から出ないと決めたのです。
黄瀬くんの練習試合は、観に行かない。そう決心したのです。



つい一昨日、金曜日のことです。その日は生憎の雨で、私はいつものお気に入りの場所でご飯を食べることが出来ませんでした。仕方なしに自分の教室でご飯を食べて、そのあとは図書室に行こうと決めました。
私は一人で昼食を食べているけど友達がいないわけではなくて、いちばん仲のよい友人は放送部に属しているため昼休みは常に放送室にこもっているのです。教室は何となく落ち着かなくて、だからお気に入りの場所は静かで落ち着いていてすきでした。黄瀬くんがいるのもそわそわの原因の1つかもしれないけれど。


「黄瀬くん私クッキー焼いてきたの」
「私はチーズケーキだよ!よかったら食べてね」


二人の女の子が黄瀬くんにお菓子を手渡して、彼はお礼を言って受け取りました。女の子たちは嬉しそうに帰っていき、黄瀬くんは友達に小突かれています。黄瀬くんが人気者だと感じない日なんてないんだと思います。
嫉妬なんて大層な名前をつけられるほどの感情ではきっとないのです。だけれど私は黄瀬くんが気になって仕方ありません。早く図書室に行きたいのに、箸は一向に進みません。ああほら、また一人女の子が黄瀬くんのところに。こうしてこっそりと観察されているなんて黄瀬くんに知られたら奇妙に思われるに決まっているのですが、案外私は自分の欲望に忠実なようです。
女の子と黄瀬くんがどんな会話をしているかはわかりませんでした。ただ、先程のお菓子を渡していた女の子たちよりも親密な雰囲気がそこにはありました。何となく見てはいけないと、これは本能なのでしょうか、感じたのですが、女の子と黄瀬くんの関係を突き止めたいがためにそれを無視をしました。

そうして私は、そのときに戻れるならば手荒な真似をしてでも自分をそちらに向かせなくしただろうと思うくらいの大きな後悔をするのです。
初めて見たのです。黄瀬くんのあんな顔は。くしゃっと顔を崩しての笑顔は。
本当の笑顔と言っても過言はないだろうそれは、特別な人に向けるためにあるものでした。私はてっきり彼は綺麗に笑う人だと思っていました。本当は全然違うのに。私は黄瀬くんのことを少しも分かっていなくて、そのくせ黄瀬くんの取り巻きに白い目を向けていたのです。


水面を輝かせるのは深海魚ではありません。太陽です。きっと彼女は黄瀬くんの数少ない理解者であって太陽なのです。私は浅はかな勘違いを少なからずしていました。黄瀬くんに誘ってもらえて、浮かれていたのです。私は太陽なんかじゃないのに、傍にいられたら、なんて。


「ばからしい……」


誰もいない部屋で布団にくるまって呟けば虚しさだけが募ります。指切りをしたときの黄瀬くんの笑顔が頭を過ったけれど、あの女の子に向けた笑顔に掻き消されてしまいました。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -