03 | ナノ

「ねえ、あなたもしかして黄瀬くんと付き合ってるの?」

普段話をしないクラスメイトの女の子に声をかけられたと思ったら、彼女らの興味の矛先は私ではなく黄瀬くんにありました。何だかなあ。そうやって短絡的にしか物事を考えられないのかなあ。小さな疑念を抱きつつそんなことないよと答えれば、そっかと安心した表情を見せ去っていきました。
私がそう問われることには理由があって、それはあれからたまに黄瀬くんがベンチに出向くからです。と言っても彼は昼休み中バスケに勤しんでいるので、予鈴が鳴ってから本鈴が鳴るまでの10分間の話です。共に教室に戻ることもあるし、きっと見られていたのでしょう。そんなくだらない予想を立てられるくらいなら、彼はここに居るべきではないと思うのです。


「いいんすよ。自分の行動は自分で決めるっす」


そう話したらこの返しです。私はそっか、と言うことしか出来ません。彼の言い分はもっともだし、内心ホッとしたというか嬉しいのも事実です。黄瀬くんと話しているととても心地好く感じるのですが、それは彼の合いの手を入れるタイミングや柔和な物腰にあるのだと思います。少しでも苦手意識を抱いていたことに平謝りしたい思いです。話題は専ら学校のことですが、最近はバスケのことやモデルの仕事についても話してくれるようになりました。自分の世界が広がるようで聞き入ってしまい、10分間があっという間に感じられることは少なくありません。


「それで、次の日曜にそのキセキのうちの一人がいる学校と、練習試合があるんすよ!」


中でもよく聞くのは黄瀬くんを含めた5人の中学生が「キセキの世代」なんて名前で中学バスケ界を風靡したという話です。初めこそ仰々しい名前だと驚きましたが、黄瀬くんの話や口振りから彼らがどれだけ凄かったか、想像が追いつかないくらいです。黄瀬くんは本当に凄いんだね、とありきたりな言葉しか出てこなくて、それでも黄瀬くんはそんなことないっす、って謙虚に笑うのです。こういうところが一度話をしてみると彼を遠くに感じさせない理由だと思います。


「ちょっと興味あるな、その試合」
「じゃあ見に来ればいいじゃないっすか!」


当たり前のように言ってくれて、思わず頬を綻ばせてしまいます。


「迷惑じゃないの?」
「全然!むしろやる気でるっす!」


だから大声で応援しちゃってくださいっす!いや、ちょっとそれは難しいかな。そんなやり取りで笑い合えば、時間はあと2分で本鈴というところまで迫っていました。本当に時間が惜しいです。そろそろ行こうか、腰を上げると待ってと制止をかけられます。


「約束の指切り、っすよ」


黄瀬くんは立ち上がった私に小指を差し出しました。ベンチによって作られた彼の見慣れない上目遣いも相まって、すごく、すごくかわいいなあと思って笑ってしまいました。


「何笑ってんすか!」
「ごめん、かわいくてつい」


彼の小指に私の小指を絡ませて指切りげんまん、お互いにリズムをとって口ずさみます。絶対っすからね!と念を押されれば悪い気なんてさらさら起こりません。家に帰ったらバスケの勉強をしようと、ひっそりと思いました。

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テーマ「人外ファンタジー」
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