黒子ショート | ナノ

 折れてしまいそうにきゅっと締まった足首が目の前にあった。骨が薄い皮に浮き出て妙に色っぽさを醸している。透き通る乳白色は見るからにさらさらと肌触りがよさそうで、そっと手を伸ばして掴む。当たり前のように俺の指が回る細さ。体格がよく色黒な俺と小柄で色白な彼女は、互いのないものを相手で補い合っているようで何だか笑える。


「……大輝、足」
「おう、起きたか」


 俺の足下の方からむくりと上半身を起こす彼女の足首から手を離す。なまえは朝が弱くて寝起きも悪い。大抵の場合二度寝しようと再び目を閉じるのだけど、今日は目を閉じないばかりか起き上がったままだ。


「大輝、コーヒー飲みたい、淹れてきて」
「なんで俺が」
「お願い、大輝」
「……わーったよ」


 俺が折れたのはずぼらなこいつを説得するのは無駄な時間を喰いそうだからであって、全身シーツにくるまって顔だけさらしてる姿が可愛かったからとか、そんな理由ではない。断じて違う。なまえが二度寝しないなんて珍しいからそれくらい聞いてやるだけだ。…どっちにしろ、俺はなまえに甘いと思う。
 寝室を出てキッチンに向かうと、テーブルの上に綺麗に包装された小さな箱が置いてあった。箱の下には大輝へとなまえの文字で書かれたカード。つまりこの箱は俺に宛てたものか。寝室に戻ってなまえにこれは何だと尋ねるのも違うと思い、細いリボンを解いて小箱を開ける。中に入っているものに、俺は仰天した。コーヒーなんて悠長に淹れる場合ではない。朝っぱらからどたどたと足音を立てながら、寝室の彼女の元へと向かった。


「おいなまえ、何だよこれ」
「大輝へのプレゼントだよ。誕生日、おめでとう」


 あっけらかんと言い放ち満面の笑みを浮かべるなまえに、俺は放心するほかなかった。


「……今日、何日だ?」
「8月31日、青峰大輝くんのバースデイでーす」


 すっかり忘れていた俺に、サプライズが成功したなまえは嬉しそうに手を叩いた。


「いやー大輝が昨日バスケでくたくたになって帰ってきてくれてよかったよ。日付代わる前に寝てくれたから携帯の電源切れたし」
「そこまでしたのか」
「だって最初に祝いたかったんだもん」


 とくんと、一際大きな音を立てて心臓が跳ねた。いとおしさに口許が緩むのを隠すようになまえとの距離を埋め、包み込む。なまえはもう一度誕生日おめでとうと呟いて、答えるように俺の背中に腕を回した。寝起きでいつもより高めななまえの体温が心地よく、ずっとこうしていたいと柄にもなく思った。


「プレゼント喜んでくれた?」
「ペアのネックレスとか男前すぎんだろ」
「こっちは大輝から貰うから、ね」


 左の薬指を摘まんで微笑むなまえに、当たり前だと言わんばかりにキスをする。


「今日どこ行く?もちろん大輝が行きたい場所ね」
「一日中家でいちゃつく」
「……ばーか」


HAPPY BIRTHDAY 青峰大輝!

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -