ディアマイスウィートビッチ! | ナノ

冷たい目が、いやに頭に貼り付いていた。


精市の仕事は基本的に日曜はおやすみなので私はここぞとばかりにおじゃまする。休日でなくてもよく遊びに行くけど、やはり休みの方がゆっくりできるから、他の人が休みの日はその人の家にいる。つまりは自分の家にいるよりも誰かの家にいる時間の方が圧倒的に長いのである。自分の家、必要なの?と疑問に思うくらいに。

白石オーナーにお疲れ様を言って職場を出たのは朝5時。精市の住みかに着いたのはその30分後。まあ寝てるよね。私は別にいいけど、彼からすればいい迷惑だ。しかし彼は何だかんだは言うけれど結局優しいというか、甘いのだ。そんなこと本人には言わないけどね。

いつものように自動ドアを開けるため数字を入力する台の前に立つ。と、ドアが勝手に開いた。手間が省けたと顔を上げると、そこに立っていたのはまだ寒さの残る朝の風が似合うような青年だった。近くのコンビニにでも行くような軽装も何となく様になっている。すれ違う際に会釈をされ、私も倣って会釈で返す。青いパーカーの青年はそうして去っていった。
視線は交わらなかったはずだ。それなのに一瞬、長めの前髪から覗く瞳から、鋭く冷たい眼差しを感じた。気のせいではないだろうが、気にしない。今は精市のところに行くことだけ。



翌日、精市を送り出してからいつぞやのように出勤時間よりも早めに精市の部屋を後にした。例のごとく鍵を郵便受けに入れ、エレベーターの下向きボタンを押す。お腹の中の臓器が気持ち悪く浮く感覚とともに、1階に着いたと知らせるポーンという音。ドアが開いて、エントランスへ出るための1つめの自動ドアに向かっている、そのとき。

「おねーさん」

振り返れば朝に見た青いパーカーの青年が立っていた、と思ったら私に近づいてきた。はて、何だろう。見ず知らずの人と会話をするには妙に近い距離で、彼は艶のある声で囁いた。

「男遊び激しいんやろ」

確証を含んだ口調。なんだかとてもドキドキワクワクする!

「生憎そんなことないんだよね」

顔の横で手をパーにしてひらひらと振る。青年は顔を離して少し意外そうな顔をした。

「今は間に合ってるから」

私がにやりと笑むと彼もにやりとほくそ笑んだ、かと思ったら唐突に後頭部を捕まれ、重なる唇。抵抗する間もなく舌がうねうねと入ってきて、まるでそれだけで生きているみたいに私の口内で蠢く。時には舌全体で、時には舌先だけで私の舌を弄び、お互いの唾液を交換する。あ、こいつキス上手い。自分からも舌を絡めれば、後頭部を押さえる力はさらに強まった。歯列をなぞり、追って追われてを繰り返す内に背中がぞくぞくして体の芯が熱く疼きだす。思わず漏れそうになる声も全て舌が広いとる。彼の舌は気持ちがよい。そのざらついた感触で舌を吸われれば、ついに立っているのもしんどくなるほどだ。
彼の背中の必死に掴んでいた手が徐々にほどけて、床にへたってしまいそうになったとき漸く解放された。唾液が私と青年を繋いで、よけいいやらしい気持ちになる。

「ふっ……はあ」
「気持ちよかったやろ?なまえサン」

この際なんで彼が私のことを知っているかなんてどうでもよくって、ただ熱の灯った体を鎮めたかった。

「濡れちゃったんだけど。キミ、責任とってくれるの?」

頼りなくパーカーの裾を掴んで言えば、それが返事のように、唇にキスを1つ落とされる。

「財前光。光って呼び」

悪いようにはせんから。部屋に連れて行かれる際に耳元で言われた言葉にさえ体が疼いた。役に立たない思考回路で、ただ早めに精市の部屋を出てよかったなーとだけ思った。

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