赤也と肩を並べて外を歩くのも赤也の私服を見るのも初めてで、新鮮だ。
「なまえさん、これからどこ行くんすか」
「私のおごりだから、あんたは黙ってついてくればいいの」
少し剥れ顔になりつつ返事をした赤也の頭に腕を伸ばして、ぽんぽんってしてやるとすぐに機嫌を直すから、わざとムッとするようなことを言うときもある。最近知ったことだけど赤也がかわいいからだよ許してね。
「赤也は弟って感じだよね」
「俺の姉ちゃんは全然なまえさんみたいじゃないっすよ」
人のこと汲き使って乱暴で口悪いし!語気を強めてそう言い放つ赤也からはしあわせのにおいがして、思わず微笑む。きっと暖かい家庭でたくさんの愛情を注がれて育ったんだろう。何笑ってんすか、と言われたから、何でもないと返して赤也の前を歩いた。
「さあたくさんお食べ」
「うぅ…いただきますっ」
複雑な面持ちながらも、赤也は網の上で肉汁を光らせいい色に焼けた肉を素早い動作でかっ浚った。余程お腹が空いていたらしい。私より早く来て私より遅くに帰るんだから当たり前だ。今日は赤也が片付けを終えるのを待っていたため私もお腹が空いている。
「なまえさん」
酔っ払いが大笑いしているのをBGMにして二人で食べることに集中し、ある程度お腹が満たされたってとき。無言を裂いたのは赤也だった。焦げないように隅に置いておいた肉をタレにつけながら返事をする。
「客に体売ってるって、まじっすか」
「うんまじ」
あーカルビ美味しい。舌の上でとろける脂を堪能しながら即答すれば、赤也は嫌でも分かるようにまっすぐに私を見つめてくる。
「店で働くだけじゃ足りないんすか?」
「うーん、不便は感じないかな」
じゃあなんで。赤也の表情が私に問い掛ける。これは好奇心じゃなくて心配なんだろう。分かっているから、嘘をつく。愛されて育ち、人を愛することを知り、それ以外を知らない赤也には、本当のことは言えない。
「ないよりあった方がいいよ、お金は」
「でも、体売ってまで手に入れるもんじゃ…」
「私にとってはそういうものかな」
会話の前のように、肉汁が垂れる音と、脂が跳ねる音と、酔っ払いの声だけになる。下唇を噛んで視線を落とす赤也を見て、つくづく思う。やっぱり私は飢えているようだ、と。