ディアマイスウィートビッチ! | ナノ

一見同業者かと思った。話してみると、全然違った。

「なまえちゃん言うたっけ、かわええのにこないな所で働くなや」
「いや、あの、はあ」
「こら謙也、なーに説教してんねん。かわええからここで働いてくれてんのや」

白石オーナーの知り合いらしい謙也と名乗った派手な金髪の男は、座るなり突然説教まがいのことを言ってきた。初めてのことで少しびっくり。なんでやっているのかと質問されたことはあったが、責められることはなかったなあ。

「なまえって本名なん?」
「まあ、そうです」
「大丈夫なん?」
「すぐバレることだし、第一面倒だから」

オーナーが宥めてからとりあえずお酒を頼んで会話に入る。オーナーからしか生の関西弁を聞いたことのない私は、最初の印象も相俟ってすっかり警戒心を解いてしまった。人並み以上に厚いバリアを張っていると自分で思っているけど、この謙也という人物なら営業用より素で接した方がいいだろうと思えた。人を見抜く目は鋭いと自負している。普段だったら適当にはぐらかす話題だが本心を吐露する。

「なんかなー、そういうもんか」
「そうですよ」

酌をしながら謙也さんの目を見つめる。映る憂いを見逃しなんてしない。

「何事も気楽に考えなきゃ、パンクしてからじゃ遅いんです」

神妙な面持ちの謙也さんと目が合う。笑顔だけ作ってやればいい。そうすれば相手も私に気を許す。ある程度の世渡り術は心得ているつもりだ。腿の上に握られた拳のすぐ近くに手を添えてもうひとつ笑んでやる。ぐらぐら揺れる照明に合わせて謙也さんの気持ちもぐらぐら揺れている。崩すにはまだ早すぎる。

「弱音を吐くことはカッコ悪いことじゃない。私でよかったら、いつでもいいよ」

私の手が彼の手に包まれるのがサインだった。

キャバクラに来る人はもちろん女の子に会いに来ているんだけど、案外悩みや不安を抱えていて、慰めてもらいに来る人が多い。謙也さんは典型的なそれだった。初めてこういうお店に来たんだし、警戒心が無いなら落ちるのは目に見えていた。白石オーナーが来るよう勧めたのかもしれない。それでいて私に付けたのなら、こうなってもいいってことだよね。

「遠恋中の彼女おんねんけどな。……もう、無理っぽいねん」

でもって何に苦悩しているかって、大半は恋愛か仕事のことにだ。板挟みの人にも出会したことあるけど。謙也さんは前者らしい、お酒を煽ったらすぐにぽろっと溢した。かわいそうなくらい純粋で単純な人だなあ。もちろん、嫌いじゃない。

「3ヵ月くらい前から怪しいっちゅうか……。結構マメに連絡取り合う方やったけどすれ違うこと多くなってん。仕事もあって会い行けへんし」

話を要約すると、大学入りたての頃から付き合っていた彼女がいたが、彼はこっちで就職が決まり遠距離恋愛になったと。それでも最初のうちは上手くやっていけていたが、段々雲行きが怪しくなってきた。どうやら彼女の様子がおかしい、浮気しているかもしれない。でもなあどうだろうもやもやうじうじ。いまここ。

「確かめようもあらへんし、信じたいけど……」

猜疑心が、なんて言うのかな。ドツボにはまって、そうなったらなかなか抜け出せないのに。彼の酔って赤く染まった両頬をぺちっと叩くと、驚いたような顔で私を見る。

「謙也さんはかっこよくて魅力的だよ。私は彼女さんの気持ち分からない。ほっといたら取られちゃうのに」

謙也さんはへにゃりと笑って蕩けそうな声でありがとなあと言った。割と本気で言ってたりする。顔、タイプです。だから私、いっちゃおうと思います。
手で謙也さんの顔を固定したままゆっくりと唇を重ねる。引き際もゆっくりと。閉じていた目を開けると、驚いて目を見開いている謙也さんが映った。本当にピュアなんだなあ。お気の毒に。私みたいな女に、目を付けられて。

「謙也さん、元気付けたいな」

それからベッドに雪崩れ込むまでにそう時間は掛からなかったと思う。きっと会ったその日に客とこういう行為をするのって少数派だけど、私は普通じゃないからそれでよし。枕営業なんかじゃない。繋ぎ止めるためにやってるんじゃなくて、私がしたいからしてるだけ。初回だからお金貰わないけど。あれ、これって結局同じこと?まあいいや、難しいことは苦手だから。

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