ディアマイスウィートビッチ! | ナノ

朝目が覚めると違う天井が見えた、なんて日常茶飯で、同じ天井を見る方が珍しいというか。精市の部屋の天井はそれでも見慣れている方だけど。ベットの中で伸びをする。当たり前のように精市の姿はない。時計の針は10のところを指している。精市のお仕事はこーむいん。私みたいな夜の仕事はしてない。
シャワーを浴び終えお茶を拝借しようと冷蔵庫を開けたらオムライスが入ってた。なまえへって書いてあるメモ用紙がラップに貼られてある。私のために嬉しいという気持ちより朝からご苦労なこったという気持ちの方が上回っている。精市も楽しんで私に振り回されているんだろうなあ悪趣味な奴め。レンジで温めてケチャップをかけて食べると予想通り美味しい。顔よし仕事も家事もしっかりこなす、性格だって女受けよし。それなのに精市に彼女が出来ないのはひょっとしなくても私のせいだよねー。

「だから私が精市から離れる、なんてことはないけどねー」

誰もいない部屋で、オムライスの最後の一口を食べながら呟く。少なくともそんな理由で彼との縁を切りはしない。だって選ぶのは彼の自由なのだから。
洗い物をして、彼の趣味の水彩画なんてものを見て寛いで、午後3時頃部屋を出た。靴箱の上に置いてあった鍵で戸締まりをして、それをドアの郵便受けに入れる。合鍵なんて持ってない。私も彼も必要ないと思ってるから。
時間はまだ早いけど、電車で職場に向かう。しょくばって響きが似合わない場所だけど。精市の家からだと乗換えしなくていいから楽。そんなことも含めて、私は精市のことを気に入っている。

「すみませんまだ準備中で……あれ、なまえさん」
「赤也ーちゃんと掃除やってんの?」

挨拶も程々に新人ボーイに絡む。赤也は半月前に入って来たばっかだけど、先輩ボーイや女の子たちから弟みたいに可愛がられている。私ももちろんそのうちの一人だ。

「オーナーっすよね、呼んできます」

物分かりのいい子ってだいすき。しかも赤也は、働き者で頑張り屋だし素直。私の周りにいない癒し系だ。今度ご飯にでも誘おうかな。

「暇だから来ちゃった」
「そういう台詞、言う相手間違ってるで」

オーナーは諭吉を数えながら現れた。銀行員かってくらい手際がいい。うちってそんな儲けてんのね。待遇の良さはトップクラスで、店が客を選ぶくらいだ。もちろんここで働く女の子たちもいい子ばっかりでぶっちゃけた話なんでオーナーは私を雇ったか分からない。全てはオーナーの手の内ということは分かるけど。ここで働くにはオーナーに気に入られなければならない。何者だろうねオーナー。私と年齢同じくらいに見えるんだけどな。

「私も掃除手伝う」
「ほんまに気紛れやな、なまえは」

ぽんと私の頭に手を置いて、撫でる。まるでお兄ちゃんのような優しい目で私を見る白石オーナーはみんなに慕われていて、みんなのことがすきなんだ。女の子の中にはオーナーに本気な子もいる。きっとオーナーはそれに気付いているし、もし告白されたとしても受け入れないと思う。オーナーは私たちやボーイを家族だと思ってるから。気持ちに応えることは出来ないんだと思う。この私がここまで考えるに至ったのだから、他の子たちもみんな重々承知していることだろう。だからオーナーをすきな子も告白なんてしないだろう。

「赤也、なまえの分もモップ出してやり」
「はい!……なまえさん、掃除なんて俺がやるのに」
「私がしたいからいいんだよ。その代わり今日の髪のセットは任せた」
「もちろんっす!」

赤也や他のボーイたちと一緒に掃除をして、それを白石オーナーはにこにこ見てて、ここは居心地がいいと心底思う。だからこそいろいろな男たちの間をふらふら渡り歩いていると言い様のない虚無感に襲われるのだ。本来の自分はどちらだったか。考えることすら億劫だ。

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