メロウ・アウト | ナノ

 ガタンゴトン、そうやって電車が走る音を擬声語として表すけれど、そう思いながら聞いてみるとなるほど、確かに電車はガタンゴトンと走っている。窓から見える景色を楽しむには慣れすぎてしまった通学電車、2ヶ月目。流れる風景の中、大勢の人の中、貴方だけがくっきりと浮彫になっているの。


 


 私が乗車してから3つ目の駅で彼は電車に乗り込んでくる。今日もいつもと変わらないブレザーと肩に提げたエナメルのスポーツバッグ。なかなかの高身長で短髪に凛々しい眉がいかにもスポーツに青春かけてます!て感じの好青年である。1時間ほど電車に揺られる私と違い、彼は駅5つ分、およそ20分の乗車時間のため、こんなに早い時間の電車に乗っているのは十中八九朝練が理由だろう。とまあ、私が「彼」について知っていることといえばその程度のことである。ほんのりストーカー臭がしなくもないが、そこは目を瞑ってほしいというか鼻を摘まんでほしいというか。

 今日もまた、私が腰かけている席の斜向かいのドアから彼が電車に乗り込んできた。彼は空席があったって必ず立ちっぱなし。乗車時間が短いからか面倒くさいからかは想像しかねるが、そういうところ、なんかいい。あと耳にイヤホン突っ込んで音楽聞いてないところもなんかいい。そういうちょっとした学生らしからぬ姿、なんて言うと彼がサラリーマンやおじさんっぽく聞こえるけれど、流されずに我を持っているという感じに勝手に好感を抱いている。かくいう私は彼が電車から降りた後は耳にイヤホン突っ込んで音楽聞いてるんだけどね。

 私がこんなに彼のことを観察していても、視線がかち合ったことは一度だってなかったように記憶している。だから私が彼を気になっているのはちゃんちゃらおかしい笑い話なのかもしれない。変に意地を張って興味ないですよーとでもいう風にスマホに目を落とし適当に操作してみても、結局は頭を上げて彼を視界に入れようとするのだから全く持って無駄な抵抗である。
 名前とか何部に所属しているかとか、気にならないと言ったら嘘になる。しかし私は見ず知らずの人に個人情報を聞けるほど積極的でないし、居ても立ってもいられない程気になって仕方がないわけでもない。こうしてスマホをいじっているフリしてこそこそ盗み見、たまにガン見くらいでちょうどいいんじゃないかな。


 ――次は△△駅、△△駅です。お降りになられる際は――


 いつもこの20分間はあっという間に過ぎ去っていく。今日も他の同じ制服を着た人に交じって電車を降りていく彼の背中にさよならと心のなかで投げかける。
 明日もまた、会えますように。


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