電脳スパイス | ナノ

モジャモジャの髪の毛。くりくりのおめめ。背は彼のほうがちょっとだけ高い。さっきからなんですのその舐め回すような視線は。視姦ですかやめてください私はそういう趣味はありません。

「あの」
「……」
「……ちょっと」
「……」
「聞、い、て、る?」
「うっわああすみません!」

本気で視姦だったのかうわあ引いたわドン引きだわ。わたわたしているワカメくんに冷たい眼差しを向けながら「ご用件はなんでしょう」と尋ねると、えっとその…と口を開いたちょうどそのとき仁王が廊下から教室に入ってきた。

「あ、赤也じゃ」
「仁王先輩!どこ行ってたんすかー20分休みに教室行くって昨日言ったじゃないっすか!」
「お前さんは俺に教室で漏らせと言ってるんか」
「なにその冗談やめてください笑えないっす。はいiPod。部室に忘れないでくださいよー」
「……プリッ」

仁王が傷付いてるー!あからさまに傷付いてるちょうレアだーあのワカメくん凄い!二人に挟まれながら笑いを堪えていると「あのっ!」とワカメくんの声。きらきらした目で私を見ている。…私?

「みょうじなまえさんっすよね!?」
「まあ…はい。一応…」
「会いたかったっす!!」

私の右手を彼の両手がぶんぶんと大きく振る。握手なのかこれは。なんで私に会いたかったんだ。どういうことだと顔に貼り付けて仁王を見ても、さっぱり分からないというジェスチャーをされた。本人に聞くしかないようだ。

「あの…えーっと、君は……」
「あ!俺切原赤也って言います!2年D組出席番号は6番で、丸井先輩にみょうじ先輩の話聞いてからずっと先輩に会いたかったっす!」

丸井先輩と言ったか…?嫌な予感がしてきたぞ。あいつが後輩に私の話をするなんて、面白がってに違いない。切原、くんは、未だにきらきら光るぱっちりおめめで私を…いや、私の体を見つめていて、仁王はというと首を傾げて顎に手を当てて不思議そうに私たちのやりとりを見ていた。

「先輩、細いじゃないっすか。どこに隠してんすか?」
「えー褒めても何も出てこないよー!…って隠してるって何の話」
「筋肉」
「……は?」
「丸井先輩に俺筋肉つけたいんすよねーって言ったんすよ!たぶん一週間くらい前なんすけど。そしたらうちのクラスのみょうじなまえっつー奴は女なのに腹筋6つに割れてて握力50もあんだよ筋トレ方教えてもらえば?て言われて…」
「……はあああああ!?」

先週丸井が教室に入ってきて私の顔を見るやいなや「筋肉バスター」と呟いて笑っていたことに漸く合点がいく。あのときはごまかされたがこんなやりとりがあったなんて…しかも見ず知らずの後輩に変な嘘吹き込みやがってあいつまじであり得ないあり得ないあり得ない…。

「赤也、みょうじは筋肉バスターなんかじゃなか。寧ろ二の腕のお肉ふにっふにじゃ」
「そうっすよね、おかしいと思ったー。じゃあ先輩代わりに二の腕触らせてください」
「代わりの意味がわかんないし仁王も勝手に吹き込むなよいつ触ったんだ知らねー!」
「え、みょうじが寝てるとき。こっそりと」
「まじ最低だ」
「そこは嫌がるのを無理矢理じゃないんすか」
「こら切原お前も何言ってんだ」
「男のロマンっす!あと赤也でいいっすよなまえ先輩」

あああもおおおお何なんだいろいろと!仁王はにやにやしてるし赤也はふにふにしようとしてるし変態どもめ!私の二の腕は触る者に幸福をもたらすのだそんくらい柔らかいんだそう簡単に触らせないぞ!二人を威嚇していると視界のはしっこに赤髪が映った。

「丸井こるぁああああてめぇえええ」
「なにみょうじそんな不細工な顔して、あ、赤也!」


そういうことか!右手をグーにして左手にポンと打ってなるほど納得という顔をする丸井の襟を掴んで揺さぶる。 仁王と赤也がまあまあと宥めているがそんなんじゃ怒りは収まらない。丸井の鞄の中に入っていた、おそらく貰い物であろう大量のポッキーとせんべいをすべてぼっきぼきに砕いてやっと腹の虫が収まった。

(あいつまじ信じらんねー俺の大事なお菓子を…)
(みょうじも女子じゃ、筋肉バスターは傷ついたんじゃろ)
(でも仁王もちょっと笑ってたよな)
(……プリッ)
(おいお前チクるぞ)

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