電脳スパイス | ナノ

なんとか無事にみょうじと仲直りすることが出来た俺は、現在清々しい気持ちで登校している。昨日コンビニで自分用に買ったガムも味長持ちで美味いし、何もかも上手くいきそうな気さえする。風船ガムを膨らましながら緩い坂を下る。平地に戻り突き当たりを右に曲がればあのコンビニが見えて、昨日の別れ際のみょうじの表情を思い出す。口ぽかんの目真ん丸ですっげー間抜け面してたけど。とか本人に言うとまた喧嘩になりかねないから思うだけにとどめる。あんな気まじーのもう御免だね。なんか胸もやもやして苦しいし。仁王は俺があいつのことすきみたいな言い方してたけどそんなことはない。断じてない。もやもやなんて誰だって喧嘩したらそうなる。俺があいつのことすきだからそうなったんじゃ、ない。大体すきとか分かんねーし。なんで俺が少し遠回りして昨日あいつとばったり会ったコンビニの方から登校すんのかも、分かんねーし。パァンとガムが割れる。前方に見覚えのある背中を見付ける。

「みょうじっ!」

振り向いたその顔は、やはり彼女だった。チャリを降りて駆け寄るとなんだかぎこちない表情で挨拶してきた。まだ怒っているというわけではなさそうだが、謎だ。

「……なした?」
「え?いや何も?」

何もないわけないだろう。挙動不審だし目を合わせないし今日も空が青いね!なんて意味のない会話し始めるし。何を言うでもなくじーっと視線を送り続けると、ちらりと一瞬こちらを向いたと思ったらまたすぐ俺とは逆の方向に顔ごと向ける。そっち塀しかないんだけど。まさか俺の顔見るの嫌とか?もしそうだったら…ちょっと凹むわ。

「…なー、もしかしてまだ、怒ってんの?」
「はっ?いや、全く」

あーなんかちょっと安心。また風船ガムを膨らます。学校が近くなって来たため立海の制服を着た生徒が多くなってきた。

「丸井もしかして…無意識?」
「は?何が」
「あーそ!はいはいそうね!あーびっくりした!」

何に納得しているのか分からないがやたら爽やかに笑ってるから突っ込まないでおく。みょうじはスクバを開けて中をがさごそ漁って「手ぇ出して」と俺に言う。チャリを片手に持ち直して手を出せば、上にラッピングされた袋が置かれた。

「なに、ガトーショコラ…?」
「うん。私もごめんね、ってことで。つっても赤也の誕生日祝いに焼いたんだけどね」

沸々と沸き上がる嬉しさが、みょうじの言葉でぴたりと止む。赤也の誕生日祝い?文化祭に何かおごるってやつじゃねーの?そういや結局二人で店回ったのか?それともそれができなかったからこうやってケーキ焼いたのか?赤也のために。赤也のため?あいつがみょうじのこと名前で呼んでんのは知ってるけど、こいつまで名前で呼んでんの?そんな仲いいっけ?俺の頭ん中は疑問符パラダイス。駄目だなんもついていかねー。

「丸井?早く行かなきゃ遅刻するよ」

生返事をした俺に何の疑問も抱かないみょうじ。何だかとても自分の存在がちっぽけに思えた。

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テーマ「人外ファンタジー」
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