電脳スパイス | ナノ

「仁王、ちょっと、今日の昼飯屋上で食おうぜぃ」

ブンちゃんが俺から目を逸らしながら言った。俺はああやっぱりな、と思いながら了解する。ブンちゃんと、そしてみょうじの様子がいつもと違うことに気付いたのは、2時間目と3時間目の間の20分休みである。ガムだの飴だのポッキーだの、何かしら口に含んでいるブンちゃんが、今日は珍しく頬杖をついてただボーッとしていて、そこに女子2人がブン太くん食べる?と封の開いたミニドーナツを差し出すと、驚いたことに彼はそれを一瞥していらないと答えたのだ。いつもなら直ぐ様反応するのに理由も言わずに断った。なにか、があるに違いない。分かりやすいのう。俺は自分からどうした?と尋ねることはしないから、ブンちゃんの席に話をするために行くことはしなかった。そしてもうひとつ、彼が食べ物を断るなんてことをしたら、斜め前の席のみょうじがブンちゃんをからかうはずなのに、それをしないことも不思議だった。二人の間に壁がある気がする、と俺は彼らから机3つ分離れた自分の席から観察していたのであった。試すような気持ちで、みょうじにも声をかける。

「みょうじも来るか?」

割と話をしている俺たちだから、そこまで不自然な問い掛けではない。それでも彼女は変な間をあけて、私はいい、と小声で呟いて神崎の方へと行ってしまった。ブンちゃんの方を向くとバツの悪い表情をしていて、なにかがあることは確信となった。




「ガキじゃのー」

それが俺の率直な感想だった。なにかがみょうじとの間の喧嘩であることは予想の範囲であったが、それもそのはず、ブンちゃんは彼女に対して素直じゃない。ひねくれすぎ。何だよ、とブンちゃんがホイップメロンパンを食べながら口を尖らす。そういえば以前彼女も食べていた気がする。気が合うのにそこからわざと目を逸らそうとするブンちゃんの青臭さと言ったら、いっそ微笑ましい。

「すきな女子いじめるなんて小学生までじゃよ」
「はっ!?すきって何だよあり得ねぇから!うん!」
「嫌いじゃあ無いんじゃろ?」
「まあ、そーだけど」

自覚はあるが認めていない、と言ったところか。むぐむぐ唇を動かしながら何やら考えているみたいだが十中八九みょうじのことに違いあるまい。そういえば小さな言い争いは日常的であったにしろ、こうした仲違いは初めてではないだろうか。

「素直に謝って許してもらいんしゃい」
「それが出来ないからこうしてお前に相談してんだろぃ」
「俺すきな子と口喧嘩したことないから分からん」
「だから、すきじゃねえって!」

以前にもこんなやり取りをしたことがあるなあと思考を巡らすと、そういえば瓜二つの会話を弟とした記憶があった。弟もちょうどブンちゃんと同じように喧嘩した、なんて言って口を尖らせていたっけ。そして弟は今、その喧嘩相手の女の子と付き合っているのだから、俺は笑いを堪えきれない。ブンちゃんが勘違いして笑うなよ、と非難してきたので思い出し笑いだと訂正すればいっそう不審げな眼差しを向けられる。

「アドバイスなんて出来んけど。みょうじも今日元気無さそうじゃったよ」
「……おう」
「ま、がんばりんしゃい」

呆けているブンちゃんの手にある一口大のホイップメロンパンをひょいと浚って口に運ぶと、甘ったるい生クリームの風味が舌に広がる。俺には理解できん好みじゃ。食べ物を奪われたにも関わらず、ブンちゃんは口元だけ笑って、きっと決心したのだろう、いい顔でありがとなと言った。

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