ショート | ナノ

「なあなまえちゃーん」
「なに雅治」
「俺な今浮気しちょるん」
「まじか。さいていだな」


あはは。乾いた笑いを口からだらしなく溢しながらナッツミックスをボリボリしているなまえちゃん、俺のねーちゃんの友達。片手にはハイボールの缶が握られている。俺がそろりと手を伸ばせばぺしいいんとはたかれる。


「痛いぜよーなまえちゃんのけちんぼ」
「こーこーせーが酒なんて100年早いわ!」
「いやあと3年経てば法律で認められるんじゃけど」
「男はなあ細かいことを気にしちゃあいけないの」


缶をおもっきし傾けて喉に流し込めば、それは喜ぶように音を鳴らす。おまけにぷはーうまいーと口元を腕で拭うというこの男らしさ。なまえちゃんは基本素面でもこんな感じ。こんな感じって、テキトーで若干口悪くてへらへらしてるって感じ。これだけではただの軽口だけど、俺はなまえちゃんのことけっこーすき。浮気相手よりはすき。


「なあなまえちゃん、明日デートしよ」
「本命彼女なり浮気相手なり、あんたにはごまんといるでしょーが、女の子」
「俺はなまえちゃんと行きたいんじゃー」


Tシャツの裾をくいくい引っ張りながら駄々をこねれば、しょうがないなあと頭を撫でられる。


「なまえちゃんは俺に甘いからすきじゃー」
「雅治はかわいーから憎たらしい!」
「いてっ」


なまえちゃんのでこぴんが炸裂した。俺のきれえなおでこがへこみそうなくらい強烈なやつ。こうかはばつぐんだあ!と高笑いしているなまえちゃんに仕返しをしようとしたらシャワー浴びてきたねーちゃんに今何時だと思ってるって静かに激怒され、俺となまえちゃんはそれまでの威勢はどこへ行ったやら、しゅるると小さく縮こまった。ねーちゃんはなまえちゃんと仲良いけど、俺と一緒にいるときは手のかかる妹みたいだって溜め息を吐く。それは俺もどーかん。なまえちゃんはねーちゃんよりもノリの良い、年の近いねーちゃんって感じがする。仁王家に泊まりに来たなまえちゃんは、その日に限り仁王なまえとして俺とねーちゃんの間に入り、俺からすれば「大ねーちゃん」に叱られるのだった。


「なまえちゃん明日動物園行くぜよー」
「明日てか今日ね、了解」
「あんたら反省してんの?」


大ねーちゃんの言葉に二人で大きく頷いて、もう寝ようってことになって俺はねーちゃんの部屋からおいとました。なまえちゃんはねーちゃんに歯磨きしろと注意されてて、まったくどっちが本当のきょーだいなのやら。




「いやー猿の毛繕いがかわいすぎた」
「餌の取り合いでまじ喧嘩してる鹿もかわいかったなり」


翌日、約束通りに一緒に動物園に来た。ねーちゃんの友達として泊まりに来ていても普通に2人で出掛ける。ていうかねーちゃんはバイトだし。妹の世話は任せたとか言って家出てったし。まあいーんだけど。
今は一通り見終わって、小さな遊具なんかも置いてある広場で休憩中。ソフトクリームを舐めながら鉄棒にゆるく腰かけている。遠くの方の砂場では小さな子どもたちが砂遊びしてきゃっきゃ盛り上がっている。平和である。和やかな雰囲気の中、場に合わぬ大声で「あ!」となまえちゃんが叫んだ。


「やべー雅治見て鳩が交尾してんだけど」
「きゃーえっちームービー録らなきゃ!」
「雅治!悪趣味すぎ!」


ぎゃははって下品に笑いながらの録画は携帯揺れまくりのぶれまくりで最早何の動画かてんで分からない。いや、分かんなくてもいいけど。動画を録るという行為自体が笑いの種であるのだから。腹のよじれが収まる頃にはくるっぽぅと鳴く愛の使者2羽は居なくなっていた。笑い疲れていたのになまえちゃんと目が合ったらまた込み上げてきて、一頻り笑って落ち着いたら今度は録画した訳の分からないぶれまくりムービーを見てさらに爆笑した。もーまじ腹痛い。一週間分は笑った。
本当に愉快だなあと思う。笑いの壺が一緒というよりは波長が合うといった方がしっくりくる。殊にくだらないことに関しては。だからつい、ぽろっと溢してしまった。


「なまえちゃんが彼女だったら楽しそーなのに」
「……え?」


……え、って、ええ?俺は思わずなまえちゃんを凝視してしまった。俺が期待してたのはそんなガチなやつじゃあなくっていつものノリの、そう、冗談のノリの、やつだったんだけど。なまえちゃんは俺と向き合って、間抜けに口をぽかんとまあるく開けて、心なしか頬を赤らめている。
ちょ、まじか。

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