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今日も非常に退屈である。毎日同じことの繰り返しで刺激なんて少しもない。いつもと同じ道を歩いて登校してきた私は、いつもと同じ席について溜め息をこぼした。

「面白いものと言ったら向日の前髪くらいだわ」
「くそくそばかにしやがって!なんだよ突然!」
「でも楽しくはないかな」
「一人で話進めんなっての!」

ああもう朝から喧しい。しっしと手であっち行けをするとここ俺の席だしって言われた。返しも普通すぎてつまらない。

「向日は代わり映えのない日々がつまらないと感じたことはないかい?」
「平和でいーじゃん」
「だからその返しがつまらないって」
「俺になにを求めてんだよ…」

朝っぱらからすでに疲れ気味の向日に楽しさなんて求めてはいけないという私の寛大な計らいにより、向日はゆっくりとというよりはぐったりとした動作で席を立った。誰が彼を疲れさせたって?そんなこと私には関係のない話である。



早々に昼食を摂り終えた私はつまらないつまらないと校舎の中をうろついてサロンにたどり着いた。奥のテーブルで忍足が本を読んでいたから奪って見てみたら、冒頭からヘドが出そうなくらい甘ったるい台詞がどんぴしゃで書かれているページだったから思い切り本を閉じた。

「自分どうしたん」
「忍足の悪趣味さが胸くそ悪くってさ」

忍足はやれやれといったように眉を下げ意味深げにふぅと息をつき「お子ちゃまにはまだわからへんのや」と言ったのでイラッとした私は彼の足を踏んづけてとっととサロンを後にした。忍足の悲鳴なんて聞こえませーん。ヒロインの陳腐な台詞を唱えながら無駄に大きな渡り廊下を歩いた。



私の前には楽しいことなんてなんにも落ちてなくて落ちてるものっていったら目前に芥川の死体(もちろん比喩である)があるくらいだから「世の中腐ってる」って呟いたら彼はええと間抜けた声をあげながら寝返りを打ってこちらを向いた。起きてたのか。その場に体育座りをして芥川を見下ろす。

「いつも寝ている芥川には私の心情なんて理解出来ないのだよ」
「バカにすんなしー。誇張しすぎなんだよ、それ」
「だって本当につまんないんだもん」
「じゃあどんなことがあれば楽しーのさ」

はて。楽しいこと。思いがけない返しに首を傾げた私であったが、芥川は大あくびをしていて興味なんかこれっぽっちもなさそうだった。毎日つまらないと思っていてもただそれだけではない、私も感情を司る心を持った人間である。楽しいとか悲しいとかだって感じる。私はここ最近の日々を思い返してみる。あ。

「犯人が分かったよ、私の毎日をつまらなくしている犯人が」
「へえー。誰なの?」



「宍戸ぉー!」
「何だよでかい声出して」
「おまえが犯人だ!」
「何の話だよ」
「宍戸と話してない日、つまらないんだよ」

宍戸は石化した。出会い頭にかちんこちんに固まった。どうらや驚いているらしい。下駄箱でラケットバッグを背負い直す途中で固まっている彼は、なんだかまぬけだ。

「私ねー気付いたんだよ。つまらないのは宍戸とクラス離れたからだって。だって去年同じクラスのときは毎日楽しかったから」
「おまえ、つまらねえとか楽しいとかが、俺に関係してんの?」
「考えた結果、そうなった」

口だけぱくぱく動かす宍戸が愉快でにやりと笑ってしまうと、宍戸の頬がかあーっと染まっていった。あれれ?

「どうしたの」
「おまえどうしたもこうしたも……いや、深い意味なんてねぇよな」
「一人でごにょごにょ、あやしいよ」

訝るように宍戸に顔を近付けると、宍戸は頭ごと私から逸らした。不審である。

「とにかくだよ、君と話さないと毎日楽しくないの。つまんないの。責任取って」
「ばっ……おま、それどういう意味だよ」

今度は思いっきり私の方に向き直る。宍戸の顔の徐々に範囲を広げていく血色を見ながら、今朝の向日との会話を思い出した。関連して昼の忍足との会話も頭に浮かんだ。宍戸と私が恋愛なんて、それはもう愉快だわ。
宍戸は口元を手で覆いながら、話しにくそうにごにょごにょやっている。

「おまえさあ、それって……」
「おい、こんなところで何してやがる」
「あっ、跡部だー。ごめんもう時間過ぎてるね」

宍戸と話をしていてデートの時間を忘れていた私だった。前進するのを促すように腰に回された跡部の手と手を合わせて、反対の手で宍戸にじゃあねと手を振ると、宍戸は再び石化した。
私はやっぱり宍戸と話すのって楽しいなあって思うのだった。

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