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朝目が覚めると部屋は悲惨な状態だった。乱雑に置かれたゲームのコントローラーとディスク、食べ散らかしたお菓子に、毛布を被って未だ夢の中にいる白石と財前が小さな山のように踞っていた。卒業式の昨日、テニス部のいつものメンバーが俺の誕生日の前祝いをしてくれた。飲んで食って騒いでさんざん楽しんで、日帰り組は日付が代わるとハッピーバースデイを歌ってそそくさと帰っていった。金ちゃんなんて眠いのに無理してくれて申し訳なくも純粋に嬉しかった。ちなみに帰りは小春の親が車で迎えに来てくれて、各々の家まで送り届けてくれたそうだ。そうでなければテニス部のおかん白石が許さなかっただろう。
さて、部屋の掃除をしなければ。時間は決めていないが、今日は彼女が誕生日祝いの計画を立ててくれたらしく、そのスタートが俺ん家らしい。テニス部の前祝いの理由はそういうことである。それなのに泊まり組のこの二人は何がしたいのだ。全く不明だが、白石の「おめでとう言うだけじゃ悲しいやん」と財前の「彼女さん来る前にさっさとおいとましますんで」という言葉に「しゃあないなあ」と承諾したのは他ならぬ自分である。起こして手伝わせるのも何か違う気がして、一人黙々とゴミ袋にお菓子の包装を突っ込んでいるときだった。

パァアン!

「うおおっ!」

突然の破裂音に後ろを振り向く。音の正体は、笑っているなまえの手にある煙を出しているクラッカーに間違いない。

「謙也のお母さんちょうど洗濯物干しとってな、インターホン押さずに入れたんよ」

俺に近付いて頭に乗ったクラッカーの紙くずを取りながらびっくりした?と問い掛ける彼女から目が離せない。昨日の帰り際、なまえは確かに「明日は気合い入れてくな!」と言っていた。それにしたって目元は強調されてきらきらしてて、髪はくるくる巻かれてて、こんな早い時間に来てくれて一体何時に起きたのだろう。いつもは化粧っ気なく巻き髪だって初めて見たし、一体どれだけ今日のために練習してくれたんだろう。あかん、かわええ。なまえのおめでとうって言葉とか普段見ない容貌とかその裏の努力とか、全部俺のためやんな。

「……謙也?やっぱり来るん早すぎた?」
「いや、かわええなあ思て」
「な、なんっ…!」

後ずさるなまえを腕に閉じ込め、赤く染まった耳をはむと驚いたように小さく体が震えた。俺の肩口辺りに沈めていた顔を上げ、潤んだ目で俺を見つめてくる彼女にすることなんてひとつで、ぷるぷるきらきらグロスで輝く唇に俺のそれを重ねる。胸を張って言える、俺はしあわせだ。互いに笑んで再び抱き合うと、なまえがひゃー!と悲鳴を上げて体を離した。突然何かと思って彼女を見ると目が合わない。もう、嫌な予感しかせえへん。

「俺らが居てるとこでいちゃつくんやめてください」
「激写すればよかったな、謙也となまえのキスシーン」
「ちょお起きてんならはよ言えっちゅー話や!」
「あないな状況で水差すん気ぃ引けるっちゅー話や」

仰々しく溜め息をこぼす財前とそれに倣う白石に、さらに顔を赤く染めたかわええなまえの表情を見せるまいと自分を楯にして「はよシャワー浴びてこいや!」と怒鳴れば、二人は適当な返事をしながらもぞもぞと起き出し、階段を降りて行った。恥ずいこと言うなや!いてこますぞ!

「謙也あごめんなあ。私がクラッカーなん鳴らしたからやんなあ」
「そんなことあらへん!」

おでこに唇を落とすとしょんぼりしていたのが嘘みたいに顔を綻ばせた。こっちまで嬉しくなってしまう笑顔だ。

「来年も祝ってな」
「まだ今日祝ってへんのにもう来年?スピードスターは気も早いねんな」

当たり前やろって笑うなまえの、あと365日俺と一緒にいるとの即決が、既に俺にとって最高のプレゼントである。笑い合って視線が交われば、どちらからともなく唇を合わせる。時が止まってしまえばいいと思う俺はアホ通り越してバカやろか。何を言われても気にならんくらいしあわせや。

「お二人さーん、仲良しこよし中すまんけど、パンツ取らせてやー」
「白石ぃいお前まじでいてこますぞ!」
「謙也さんうっさいわあ」
「財前もまとめてかかってこいやあ!」

気になるどころやあらへん!ドアから顔だけ出した二人を睨む視界のはしっこに、くすくす笑うなまえが映った。こんなんで笑ってくれるなら、いくらでもコイツら二人と口喧嘩してやろうと思うのだ。
今日はまだ、始まったばかり。

2012.03.17 happybirthday 謙也!

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