春だっていうのにやたら暑い今日は家で一人でクーラーをがんがんにかけて寝るのが一番だ。起きたら既に昼過ぎで、出掛ける気が削がれたので茣蓙をひいてその上に寝ることにした。なんて気持ちいいんだろう。次に生まれ変わるなら猫で決まりだ。かつおぶしのたっぷり乗ったお好み焼きを想像しながら瞼を閉じると同時に有り得ないくらいのチャイムラッシュが私を襲った。ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーーーーーーーン!!!!!やかましい消えろ。しかし玄関には行かない。高校時代にスリーピングビューティの名を欲しいままにした私がこの程度の妨害に負けてたまるものか。寝返りをうち、鳴り続けているチャイムをBGMに再び眠りの中へ。

「うるせぇええええええ!!!!!」

「ぎゃあああああ」

壁の薄い愛する我がアパートでは外で起きたことが全て筒抜けなのだ。玄関の前で起きた事件を想像するなら、チャイムを押し続けていた人物、仮にAとするが、それが隣の部屋の怒りっぽい住人、仮にB…というか坂田さんだけど、に蹴り飛ばされたのだろう。

「何をする銀時!!後ろから蹴りかかるなんてとんだ卑怯者になったな!そこまで落ちたか!」

「このうっすいアパートでチャイム連打してるテメェに言われたくねぇんだよ!寝てたんですけど!夜勤開けなんですけど!!」

「ふん、俺だって徹夜バイオハザード開けだ」

「お前はただのニートだろうがあああ!!!」

訪問者は桂くんだったらしい。じゃあ尚更出なくていいか。坂田さんはあのチャイムに起こされたらしい。まだまだ若輩だな。

「大体こいつあのチャイムで起きてこないってどういう神経してんだよ。死んでんじゃねぇか?」

「何!ならば尚更!!」

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン

「だからうるせぇんだよ!お前は騒音オバサンですか!?」

「お前は彼女のことが心配じゃないのか!それに騒音オバサンじゃなくて彼氏だ!」

いや彼氏じゃねーだろと心の中で浜ちゃんも真っ青の高速ツッコミを繰り出す。心の中で。なんかもうやたらうるさくなってきて、さっきまで見ていた夢の内容も忘れてしまったので渋々起きることにした。寝違えたらしい首が痛いので傾けたまま扉を開く。

「どっちもうるさいんだけど。今何時だと思ってんのおはよう」

「健全な人間は真っ当に活動してるくらいの時間だよおはよう」

「おぉ生きてたか!デートに来ないから心配して迎えにきたんだおはよう」

「は?デートって…」

覚醒しない頭を捻ってもそんな約束をした覚えはない。第一桂くんとデートをするような間柄になった覚えもない。よってこれは彼のお得意の妄想だということが分かる。

「妄想乙」

「なんだよ妄想かよ若干びびったわ。幼なじみと隣人が恋仲ってなかなか気まずいもんがあるよ」

「妄想ではない!約束したのは一週間前のことだ」

誰も頼んでいないのに桂くんは身振り手振りを交えて語り出した。色々と遠回りをした説明だったが、要約すると寝ている私に桂くんが一方的に約束を取り付けたということらしい。坂田さんは「そんなもん約束じゃねぇよ」と桂くんのサラサラヘアーを叩いていたがツッコミどころはそこではないと思う。怒りと気持ち悪さで眠気がサーッと引いていくのを確かに感じた。

「なんで寝てる私の横に桂くんがいるんだよ」

「鍵が開いていたら入るだろう、彼氏として」

「彼氏じゃねぇし不法侵入なんだよはげ!!!!」

気持ち悪いストーカー桂くんの長髪の先端をこすりあわせ散々絡ませてから部屋に戻ってバナナ食って寝た。おやすみ。


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