耳を劈(つんざ)く悲鳴に眉を潜めた。目を覆いたくなる光景に視線を逸らした。

それでも私はここにいる。


▼神様は夜に泣く


 やがて悲鳴は聞こえなくなった。視線を戻すとさっきよりも艶のある顔色のフェイタンが微笑んでいた。
「悪趣味」
 彼は私の言葉に興味はない。反応はなく、拷問機を愛おしむように撫でている。そんな彼に感じるこの感情はまるで呪いで、かれこそ拷問だ。嘘みたいな思いだけど知らないふりは出来ない。
「いつまで居るね。ささと出るよ」
 元は人間だったそれを掴み、扉に手をかける。シズクに死体を吸わせないのは拷問機に血を染み込ませたいからだ。悪趣味だよ、本当に。泣きそうになったのを堪えて先に出たフェイタンを追う。こんな部屋にいつまでもいる気にはなれない。
 地下室とは違う澄んだ空気を肺に目一杯送り込む。ずっとあんなところにいたら狂う。フェイタンに着いて回るようになってから実感した。彼の傍にいられるのは並大抵の女じゃない。私ですらフラフラだ。何で私はフェイタンが好きなんだろう。何度も考えた。クロロならオフのときは比較的まともだ。顔もいい。ノブナガは親父だけどある程度の常識はある。シャルは腹黒いけど顔はいいし一般人に一番近い。筋肉も嫌いじゃない。
「何考えてるね」
「何に、も」
 首を掴まれる。フェイタンの顔が近付く。今彼が力を入れたら私の首は静かに床に落ちるのだろう。
「男のことね」
 ああ、もしかしたら折られるのもありかもしれない。フェイタンに殺される側になれば彼の気持ちも少しは分かるかもしれない。敢えてオーラを集めて首を守ることはせず、フェイタンを見つめた。
「ちっ」
 解放された喉から酸素を吸い込む。もう少しで景色が反転するところだった。噎せる私にフェイタンはいつもより低いトーンで言った。
「お前の考えてること分からないよ」
 あんたがそれを言うか。しかし言い返すにも私は酸素を取り入れるのに精一杯だ。何も言えない。目でその思いを伝えようとするが、伝わるわけはなかった。
「何で血が嫌いなのに旅団にいるね、ワタシについてくるか」
「フェイタンが好きだから」
「そんな感情わからないね」
自分の言葉なのに語尾に自信がなくなってしまった。
「ワタシはお前の趣味に合わせたりしないよ」
「バレエや編物をするフェイタンなんて見たくないよ」
 ふざけて言ったのだが、勢い伸びた手に頭を掴まれた。潰されるのかと思ったら、そのままその手はぎこちなく動いた。
「ワタシだってこれくらいは出来るよ」
 くしゃくしゃに撫でられる頭。優しさを知らないくせにその手はいやに優しい。誰かの爪を剥がしたり骨を折るためだけの手ではないなんて、そんな、私が知らないフェイタンなんて、困るじゃない。
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