カツ、

足元の小石を蹴り飛ばし、静かな部屋に音が響いた。しまったと焦るよりも早く彼女は勢いよく振り向いた。

真っ暗なこの場所は二人の輪郭を奪う。彼女から俺は見えない。俺も彼女が見えない。何も答えない俺に彼女は嬉しそうに言った。

「三成、三成ね!また来てくれたのね」

部屋の蝋に火を燈す。明かりをつけても彼女の目に俺が映ることはない。一方的に彼女の痛々しい姿を映す。彼女は盲目的に三成を求めて、俺と三成を勘違いしている。何も言わない俺を不審にすら思わない。三成だと信じきっている。なんて愚かな、愛しいひと。

「血の匂いがするわ。戦に行ったのね…」

声に悲しさが含まれた。手が伸ばされたので触れられるように近寄る。彼女の白く柔らかい手が俺の頬に触れる。光を映せない目から涙が零れた。

「戦なんて行かないでここにいて。兼続達に任せておけばいいのよ」

不意に出された自分の名に心臓が跳ねる。それがどんな内容だったとしても、彼女の口から自分の名が紡がれただけでも嬉しいのだ。

なんて、重傷。

「三成も泣いてるのね」

この先彼女に伝えることはないだろう。俺は三成に成り切り、三成として愛し愛されるのだ。彼女は知ることはない。戦死した親友のことを。

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