最低限のアクセサリーを施し、真っ白なワンピースに身を包んだ彼女は、俺以外の目から見てもここにいる誰よりも輝いているだろう。俺の手を引いて走り回っていた天真爛漫な彼女はそこにはいない。

「綺麗になりましたね。まあ僕は始めから目をつけていましたが」
「骸てめぇあいつに手出したらぶっ殺すぞ」
「お前らパーティで騒ぐなって。ほんっと仲良いのな」
「お前の目は節穴か!」
「全員煩いよ。ただでさえこんなに群れてて咬み殺したいっていうのに」

後ろで騒いでる守護者たちに思わず苦笑いが零れる。今の彼らは守護者というよりも先輩や友、昔のようだ。

「綱吉様、参りましょう」
「なんかそれくすぐったい」
「今更何」

だけどもう昔のようにはいかない。させてくれる周りじゃない。彼女は俺の腕に手を絡ませた。愛想笑いとエゴと下心だらけの大人達の中に立つ俺達は浮いている。だけどそれを感じてはいけない。

「弱虫綱吉がマフィアのボスだなんてね」
「それこそ今更でしょ」

俺の耳元で、俺にだけ聞こえる声で囁かれた悪戯な響きに身体が震える。懐かしさからか、愛情からか。

「挨拶回りはこれくらいでいいよ」

会場を一回りして、重役とは声を交わした。好意的な目で見てくれた人達の名前も覚えた。彼女は肩を下げて大きく息を吐いた。

「バルコニーにいるから飲み物持ってきて」
「はいはい」
「お酒は嫌だよ、ジュースね」
「分かってる」

マフィアのドンを顎で使う女は後にも先にも彼女くらいだ。それを素直に聞くボスもきっと俺だけだろう。

近くにいたウェイターを引き止めてシャンパンとリンゴジュースを貰う。バルコニーに行くと彼女は素足になって手摺りに腰掛けていた。

「あ、危ないだろ!」
「綱吉がいるから平気よ」
「何だよそれ…」

勿論助けるがそういう問題ではない。ジュースを渡して互いのグラスをぶつける。会場内とは違い静寂が支配する空間にガラスの音が響いた。冷たい風が、ほてった身体に心地よい。

「美女の悲鳴は地球の裏側でも聞こえるでしょ?」
「自分で言うなよ」
「へえ…否定するんだ」
「別にそういうわけじゃないけど」

お前の声だからどこにいても聞こえるんだよ…なんて台詞はディーノさんやリボーンだからこそ似合うものだ。俺にそんな言葉が使えるはずがない。彼女は不満そうに口を尖らせた。

「ねぇ綱吉」

強い風が吹いて、彼女の身体が揺れた。考えるより先に身体が動く。腕を掴んで自分に引き寄せる。かっこよく胸に抱き留める余裕なんてなくて、二人してバルコニーに倒れた。俺の上に彼女。とりあえず一安心だが本当に言った通りになるもんだから思わず溜め息が出た。

「だから危ないって言っただろ!」
「言った通りちゃんと助けてくれたじゃん」
「あのな…」

反省の色は皆無だ。楽しそうに笑うこれに何を言っても無駄なことを知っている俺はもう一度息を吐いた。

「ほら、退いて」
「ねぇ綱吉」
「…何?」

今誰かが来たら絶対に誤解される。リボーンに見られたら撃ち殺される。女に押し倒された十代目に誰が着いてくる。獄寺くんくらいだ。

この位置からは逆光で表情が読めない。

「ちゃんと泣いて笑って生きてね。マフィアのボスだからって押し潰されないで、綱吉のままでいてね」
「な、何だよ急に?」
「自分の優しさを弱さに思わないで、私達はそんな綱吉だから着いていくんだよ」

冷たい指が頬に触れる。

「どういう…」

俺からどいて立ち上がった彼女は笑って言った。


▼だからうんまあつまりそういうこと


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おちなし

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