思えば今日は全てが最悪だった。

携帯のアラームは充電が切れていて鳴らない。遅刻間近に目を覚まして焦ってスープをひっくり返す。タンスの角に小指をぶつける。鞄を忘れて途中で引き返す。極めつけには世界一逢いたく奴との遭遇。消えてなくなりたい。私はなんて不幸な星の元に生まれてしまったんだろう。

「貧相な顔がさらに見るに堪えなくなってますぜ。いい整形外科でも紹介しやしょうか」

「結構ですさようなら二度とこいつに逢いませんように」

拒否と願いを一度に言ってとにかくこの場を去ろうとしたのに腕を掴まれたことにより願いは叶わなかった。掴まれてるというよりも潰されてると言ったほうが正しい気がする。痛い痛い痛い、

「顔が悪すぎる奴も連行していいならかっ捌いてやんのになァ」

「ドSは警察になっちゃいけない決まりがあればいいのになあああ!」

「そんなことより貧相な面に貧乏臭い服でどこに行くんでィ」

「沖田には関係な痛い痛い」

掴む→潰す→絞る。痛みの順位で言うと絞るが最上級だ。絞るを使われたら反論は出来なくなる。そりゃあ自分の身体は大事だよ。限界まで高い声を出したら嫌そうな顔をしながら解放された。何でお前がそんな顔するんだ。何で私はこんな目に。

「デートだよ、デート!」

「デート?豚が人間のまね事なんて止めなせい。みっともねェ」

「いや人間です」

「豚ですぜ」

「まごうことなく人間だよ!」

こうして無駄な言い争いをしている間にも針は左回りに進んでいく。30分前には着いておきたいのに。今日の私はデートを楽しみにしていて待ちきれなかった可愛い女の子っていう設定だ。遅刻なんて有り得ない。

「お願いだから邪魔しないでよ…」

間近に迫るクリスマスを一人で過ごすのなんてもうたくさんなのだ。ここで彼を逃がしたら私はまたシングルの友人達と騒ぎながら楽しい悲しい聖夜を過ごしてしまう。沖田の隊服の裾を掴んで心からそう言うと、彼は頷いた。

「分かりやした」

「そっか、良かった。じゃあ」

「俺がデートとやらに付き合ってやりまさァ」

「いやいやいや!!」

こいつに私の精一杯の甘えが通じるわけがなかった。

「話聞いてた!?私にはちゃんと相手が」

「気にしなくていいですぜ、俺よりいい男なんていねェよ」

「お前よりサドはいないの間違いでしょ!ちょっと、やだ、離せ!」

再び握られた手は今度は俗に言う恋人繋ぎというやつで、柄にもなく心臓が跳ね上がった。相手は私の恋路を邪魔するクソガキ沖田だってのに?いやいや有り得ないでしょ。引っ張られながら沖田の後ろ姿を見つめる。

「ちょっと!聞いてんの?」

「え?クリスマスも一緒にいたい?仕方ねェな、聖夜仕様で縛ってやりまさァ」

「お前の耳腐ってるよ!!」

沖田馬鹿、沖田ハゲろ、沖田サド。泣きそうになりながら必死に足を速める。だけど、気付けば時計の針を見るのも忘れた自分がいた。

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