/お受験しましょ!\




嫌がらせかと、頬が引き攣った。臨也先輩から渡されたお守りに金の糸で刺繍された文字は何度見ても"安産祈願"だ。神様を蔑ろにするわけにはいかないので、握り潰したいのを堪える。冷静であるよう努めろ。目の前の思考回路がショート寸前の男の真意を確かめる方が先だ。確かめずとも大方の予想はついている。

「臨也先輩はご存知ないかもしれませんが、私にこれは必要ありません。それとも私は自分も知らないうちに妊娠していたんですかね」
「まさか!そうだったら相手の男は生かしちゃおかないよ」
「ならこれはどういうつもりだこのやろう」

ずいっと鼻先に突き付けてやる。どうせ嫌がる私の反応が見たいだけなのだろう。人を見下した嫌な笑みを浮かべているのだろうと予想していたら、意外にも臨也先輩はバツが悪そうな顔をしていた。予想外の表情に戸惑い、お守りを顔から離す。

「なんですかその顔。気持ち悪いんですけど」
「俺だってねえ、」

年甲斐もなく唇を尖らせる。顔だけは厭味なほど整っているのでそれなりに見えてしまうのがまたむかつく。
「ちゃんと買いに行ったんだ。学業の神様のところにさ」
「なんでそれが安産祈願に化けるんですか」
「今って受験シーズンだろ?売り切れてたんだよね。在庫を探してきてもらうのも面倒だったし、何より売り場にいたのが巫女さんじゃなくてはげ気味のおっさんだったんだよ。萎えるでしょ」
「知らないよ」
「仕方ないから一番君らしい色のお守りを選んだってわけ」
「私らしい色で茶色って結局喧嘩売ってるんですか」

反省しているようで失礼なことを言ってるのは無自覚なのか。臨也先輩の好意だか悪意だか分からない思いに喜べずにいると、思い出したようにポケットを漁りだした。

「手出して」
「嫌です。どうせ録なものじゃないんでしょ」
「酷いなあ、ほらほら」

そう言って無理矢理手に握らされた。ガムのゴミやレシートたったら許さん、と思っていたがどうやら違うようだ。

「おみくじですか」
「君のために引いてきたんだよ」

ポケットに入れていたのに綺麗なままのおみくじだった。少しうるっときた。臨也先輩にこんなサプライズ能力があるとは思わなかった。感動に包まれながら折り畳まれたおみくじを開いた。

「……末吉」

ああ、何故私は学ばないのだろう。目の前の男を誰だと思っている。折原臨也だ。おみくじの一番上に大きく書かれた"末吉"の文字。…いや、このおみくじなりの意味があるのかもしれない。そう思い運勢が細かく書かれた欄を見る。

「学問、難あり」

見上げた臨也先輩はさっきより気まずそうな顔をしていた。

「馬鹿にしてるんですか?馬鹿にしてますよね?」
「いや違うんだって。これにも壮大な物語があるんだけどさ」
「受験生に学問難ありのおみくじを渡す理由になる言い訳なんてあるか!」
「ヒステリックになるのやめてよ、みっともない」

私は何度こいつとの会話で血管が切れそうになってきたことか。手の平のおみくじをぐしゃっと握り潰す。神様ごめんなさい悪いのは全てこいつです。折原臨也です。

先輩はいつもの教祖風の大袈裟な調子で言い訳を語りだした。回りくどくいろいろ言っていたがまとめるとこういうことだ。

先輩としては本気で大吉を当てるつもりでおみくじをしに行った。しかし初めに出たのは大凶。もう一度引く。凶。もう一度。凶。それから大凶と凶を1:5くらいの確率で引き続け、最終的に一番良かったのがこの末吉だったらしい。彼が言うにはそこの神社の凶と大凶は自分が引き尽くしたのだと。証拠といってポケットの中に入った大量のおみくじも見せられた。その夥しさに一瞬怯んだが、それ以上に滅多に出ない大凶と凶をここまで引き当て続ける臨也先輩の運の無さに同情した。普段から神を馬鹿にしているからこうなるのだ。日頃の行いが出たのだろう。

「悪いとはおもったけど折角引いたのに渡さないのも癪だからさ。俺の執念が篭ってると思って受け取ってよ」
「怨念の間違いじゃないですか」

一度手の中でぐしゃぐしゃになったおみくじを広げ直す。臨也先輩の運の悪さが篭っている気もしなくもないが、粘り強くなれるとでも考えればまあ…いいか。実はわりと本気で心配してくれているらしい先輩に少し感動していたりもするのだ。

「先輩、ありが…」
「あ、そうだ。ここ見て」

礼を言おうとしたら、広げたおみくじの文章を指された。読んでみれば、"子宝に恵まれる"の文字。

「俺思ったんだよね、ここまで出産運があるならいっそ俺の子供を産んだほうがいいんじゃないかなって」
「自分で産んでろ!!!」

末吉とお守りを顔面にたたき付けた。静雄さんほどではないが、不意をついたのでなかなかのダメージを食らわせられたはずだ。私はようやく受験前に奴と関わることが間違いなのだと悟った。



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