僕らのイーブン



※主人公がオネェです








「転子ちゃん、おはよ〜。」
「ハッ!出ましたね秋原さん!おはようございます!」
「うーん……挨拶を返してくれるのは嬉しいけど、臨戦態勢でするのはやめて貰えないかしら?」

朝のモノクマアナウンスを聞き、部屋を出たところで偶然居合わせた茶柱の態度に、秋原は苦笑いを浮かべた。敵意むき出しの顔をしながら今にも飛びかかってきそうな雰囲気の彼女の態度にも、もういい加減慣れつつあるのが何とも言えない。

「そうはいきません!男死はそうやって人のいい笑顔の裏にどんな獣を飼っているかわかったもんじゃありませんからね!」
「ひどいわぁ。私、心は乙女なのよ?」
「笑止千万です!心がどうであろうと男死は男死なのです!」

キシャー!と威嚇するような声を上げながら、茶柱はそう高らかに叫ぶ。朝から本当に元気な子だ。見ているだけでこっちもパワーを貰えそうである。

言った通り秋原は男でありながら心は女性であるが、そんなことは男子嫌いの茶柱には関係ないらしい。秋原としては元気な女の子と話すのは好きなので出会ってから根気強く接し続けてはいるが、あまり進歩しているとは思えなかった。──まだ出会い頭に投げ飛ばされかけないだけ、進歩はしているのかもしれない。

「どうしたら転子ちゃんに普通に接して貰えるようになるのかしら……。」
「それは秋原さんが男死である限り、まず無理ですね。」
「相変わらずバッサリ言うわね!」

清々しいわ!と秋原は天を仰ぐ。

「男死がこの世に存在する限り、転子はネオ合気道を極めることはできませんからね。男死がこの世界から一匹残らず消えるその日まで、男死を憎み続けなければならないのです。」
「しんどそうな生き方ねぇ……辛くない?無駄にカロリー消費するだけよ?」
「んなっ!男死の分際で転子に同情しないでください!」

びしっと人差し指を突きつけながら茶柱は言う。でも、誰かを嫌うというのは相当体力を使うものだ。彼女がエネルギッシュなのは重々承知しているが、もっと肩の力抜いて過ごせばいいのにと思う──体育会系の茶柱にそれは無理な相談なのだろうが。

「転子はこれでいいんです!自分の信じた道を進んでいるだけなのですからっ!」
「まあ、アンタがいいならもう何も言わないけど。でも勿体ないわ、折角可愛い顔してるのに。」
「……。」

秋原の言葉に、無言でシラケた顔をする茶柱。同じ事を同性の赤松から言われたときは滅茶苦茶照れていたのに、この落差は何なのだろうか。

そのシラけ切った顔のまま、茶柱は呆れたような口振りで言う。

「男死はすぐそうやっておだてればいいと勘違いしていますよね。何の興味もない男死からの褒め言葉なんて逆に気持ち悪いだけですよ。そもそも男死が女子を褒めるのは下心がある時だけと相場が決まっているんですからね。」
「褒め言葉は褒め言葉として有難く受け取っておきなさいよ。ホンット強情なんだから。」

頬に手を当てて、ハア、とため息をつく。アイドル顔負けの容姿にモデル顔負けのスタイル、表情も豊かで声もハキハキと聞きやすい。こんなに素材はいいのに本当に勿体ない。まあ、自分に言われたところで茶柱はやっぱり「男死に褒められてもミリも嬉しくないです」なんて一刀両断するのだろうけれど。

「そう言う秋原さんも強情さで言えば転子の上ではないですか?こんなに冷たくしているのに尚も話しかけに来るなんて……さては秋原さんもいじめられて嬉しい系男死ッ!?」
「は!?違うわよ!変な誤解をしないで頂戴!?」

あらぬ疑いをかけられそうになって、食い気味に否定する。

「私はただ可愛い女の子と仲良くなりたいだけよ。」
「うわ!ついに本性を表しましたね!顔がよければ誰でもいいというわけですか!」
「だぁから!そうじゃなくてただ純粋に話を楽しみたいってだけで──。」

「んあー……朝っぱらから何を騒いどるんじゃ……?」

はた、と。そのまま水掛け論にすら発展しそうだった茶柱と秋原のやりとりは一時中断される。二人がぱっと横を見れば、ちょうど部屋から出てきた夢野が、目を擦りながら大あくびをしているところだった。

──唐突な第三者の登場に、しかし、茶柱と秋原のテンションはさらに上がる。

「夢野さん!おはようございますっ!」
「あらあら!秘密子ちゃん、おはよ!今日も小さくてキュートだわぁ。」
「ちょっと秋原さん!夢野さんを誑かそうとするのは止めてください!ついでに呼吸と心臓も止めてください!」
「ド直球に死ねって言われた方がマシだわ!?」
「んあー、うるさい……。じゃが文句を言うのもめんどい……。」

ほじほじと耳をほじりながら夢野はぼやく。茶柱一人でもだいぶ騒がしいのに、今朝は秋原まで一緒か。めんどいのう。そう顔に書かれているようだったが、二人には通じない。

「ちゅーか、おぬしらは何をこんな所で突っ立っておるんじゃ……。うちは食堂に行くからそこをどけい。」
「はっ!そうでした!こんな所で秋原さんなんかに油を打っている場合ではありませんでした!それでは夢野さん、転子と一緒に食堂に行きましょう!」
「ちょっと、秋原さんなんかって何!?そんな風に思ってたの!?ていうか、私を仲間外れにしないでよぉ。私だって秘密子ちゃんとご飯にしたいわ!」
「はぁー?何で秋原さんがでしゃばってくるんですかー?夢野さんは転子と二人で朝食にした方が楽しいに決まってます!」
「んあー……。」

また自分の頭上でやんややんやと騒ぎ始めた二人に、夢野はうんざりしたように息を吐く。夢野を挟むとこの二人はいつもこれだ。少しくらい静かにできないのだろうか。

ついには夢野の左を茶柱が、右を秋原がホールドする形で三人並んで食堂へと歩き始める。──どんだけ仲良しなんじゃ。夢野はぼんやりとそんなことを思いながら、どこか遠くへ意識を飛ばした。

back
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -