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私の名前は葛城忍人。
ひょんなことから、この高千穂男子学院の数学教師を勤めることになった。
実を言うと、例の持病が完治していないのだが…。
まあ、それはおいおい話すこととしよう。
とにかく、校長の岩長姫には隠したまま、今日という授業初日にあたることとなった。

教室に入ると、まず目に留まったのが黒板の『葛城先生、歓迎!』の文字だった。
周囲には、細い折り紙でつくられた輪っかをたばねた飾りも施されている。
想定外のアットホームな対応に狼狽えていると、一人の男子学生が話しかけてきた。

「へへっ。先生、おいらたちからのプレゼント、気に入ってもらえたかい?」
きらきらと輝く大きな瞳が印象的な、褐色で茶髪の少年だった。
「これは…ありがとう。しかしこれでは、授業が始められそうもないな。」
そう言うと、少年はしゅんとした様子で
「何だい、せっかく仲良くなれるかと思ったのにな。」
そう言って座っていた机から飛び降りると、黒板の文字を消し始めた。
「待て、今スマホで撮影するから」

俺はよく人に察せらるる通り人づきあいの悪い方だ。
人との接し方が分からないと言った方が正しいかもしれない。
今も何故だかクラス中に軽く笑われてしまった。
しかし、ようやく安定した職につけた身。
これからは年若い子どもたちとの付き合い方も学ばなければと思った。

「何だよ、けっこー優しいんだな、葛城先生は。柊先生とは大違いだ。」
名前を知られているとは思わなかった俺は少し動揺した。
「ありがとう、葛城忍人だ。これからよろしく頼む。」
少年は八重歯を見せて輝かしく破顔すると、俺に手を差し出した。
「おれは足往(あゆき)。このクラスのむーどめーかーってところだ!ちなみにクラス委員は、いちばん後ろの窓際に座ってる道臣さん。」
そう言って足往が指を指す方角を見ると、優しげな面立ちの青年が少しの恐怖をにじませた表情でこちらを見ていた。

「足往!余計なことを…」
道臣さんと呼ばれた青年は、とにかく背が高く、少し大声を出しただけで周りが萎縮した。
しかし、周囲に萎縮されたことに対して、彼の方が萎縮したらしかった。
顔が青ざめている。
「いえ、すみません。
私の名前は○○道臣。
以後、よろしくお願いいたします。」
どうやら気が弱いらしい。
けしからん。
俺は気が弱いやつとは気が合わない性質なので、今後上手くやっていけるかどうか少し憂いを抱いた。
「こちらこそよろしく頼む。
何かと用を言いつけるかもしれないが、手伝ってくれると助かる。」

そこからは自己紹介の時間となった。
俺としては人の性分など付き合っていくうちに分かるものだし、自己紹介など要らんと思ったが、発案者である足往のきらきらとした眼力に忍し負けた。
駄洒落ではない。

「私の名前は布都彦。
至らぬ点もあるかと存じますが、よろしくお願い奉ります!」
ほう…。
なかなか胆力のある青年もいたものだ。
発声からして違う。
俺も見習わなければいけないな。

「俺の名前は葛城忍人!
好きな食べ物はシュークリームだ。
以後、よろしく頼む。」

こうして、高千穂男子学院での新生活がスタートしたのだった。

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