迅さんは度々慌てて立ち上がり、どこかへ走り出すことが多い。
趣味の暗躍、にしては目立ちすぎるしなんだか変な感じだなと思いながら日々を過ごす。
今日もランク戦を一通りやって飲み物でも買いますかと歩いていれば、遠くに迅さんを見つけた。
挨拶すべきだろうと近寄ってみるとどうやら誰かと話し込んでいる様子だった。
迅さんの表情は、たまに見る慌てたような顔だ。つまりは迅さんが話している人がその原因なんだろう。
ちらりと見ていると普通の女の人、というのが最初の印象。けれど所々肌に貼られたガーゼや巻かれた包帯が痛々しく歪だ。
会話は聞こえないもののどこか切羽詰まったような迅さんを宥めるような女の人。
何となく、そんな迅さんが珍しくてしばらく観察していれば彼女の手が迅さんの頭に伸ばされた。
頭を撫でられている。
そうすれば迅さんは照れたような、諦めたようにため息をついて、その女の人とさよならをした。目を逸らさずずっと様子を見ていたものだから、こっちに顔を向けた女の人と目が合ってしまって思わず声が出た。
「なるほど、君がゆーまくんだね」
「どうも」
自動販売機の近くにあるソファに座り、互いに自己紹介を交わした。女の人は美咲ゆうさんと言うらしい。
「迅からよく聞いてるよ。強いんだってねー」
「…ゆう先輩は強いの?」
「私?」
元気そうに笑うゆう先輩はそれでも青白い肌に変わりない。問いかけにゆう先輩は人差し指を唇につけてうーん、と考える。
それがゆう先輩の考える癖みたいだ。ふにふにと柔らかな唇を押しながらもこてりと首を傾げる仕草は、愛らしき少女のようにも思える。
「さあ、どうでしょう?強いと嬉しい?」
「うむ。是非ともランク戦を申し込みたいですな」
「うん、うん。たいへん活発的なコで」
「で、どうなの?」
「つよくないですねー」
ウソは言っていないようで残念、と漏らせば、申し訳ないと、絶対そうは思っていないような笑みで返される。
「私、戦うの苦手ですので」
「ほお……、苦手なのにボーダーしてるのか」
「苦手だから、いいんだよ」
微笑むゆう先輩。さっきと変わらないはずなのに交わる瞳の奥の奥のは、嘘などひとつもない、陶酔がすべてで。
苦手だから、いい。
何故か?
そんなの、想像すれば簡単な話だ。
それでもゆう先輩の瞳を見ていると何も考えられなくなる、ような。
「──空閑?」
「…オサム?」
どうしようかと思うと同時に、聞きなれた声で案外簡単に現実へ戻ることとなった。
声のした方角に視線を流せば、オサムとチカがいた。換装はといているのでもう帰る時間かと驚いた。
「お友達ですかな」
「…うむ」
なら行かなきゃねとゆう先輩に言われて頷く。
何となくもう一度目を合わせてみるがさっきのような異質はなくさっきのは気のせいか、と心の中に留め、ではまたとお辞儀をしてオサムとチカのいる所に走る。
後ろを少し覗くとゆう先輩は微笑を作り、手を振りながら小さな口が動いた気がした。
「またがあればいいね」
自殺願望者と空閑遊真