この愛の謳い手はきみ


「部活始めるぞー!」

吹奏楽部部長の円堂の声で少し騒がしかった音楽室は静かになった。

「今日の練習メニューは個人練1時間、10分休憩挟んでサントレ!アンコン出るやつらはその後残って練習してくれ!」

円堂の声を聞いて、部員達は返事をして楽器を組み立てたり、譜面台を出したりと部活の準備を始めた。しかし、円堂は続けて言った。

「それと、鬼道と士郎は準備が終わったら準備室に来るように、って久遠先生が言ってたぞー!」
「…?あぁ、分かった」
「りょうかい〜」

鬼道は呼び出されたことを不思議に思った。自分は何か悪いことをしたのか…と思ったが、吹雪も一緒だから違う。第一、怒られるようなことをした覚えはない。悶々と考えているうちに楽器を吹く支度が終わった鬼道は、まだ楽器を組み立てている士郎のところへ行った。

「…士郎」
「あっ、ちょっと待っててね、もう少しで終わるから……よし、行こうか」
「…士郎は、先生に呼び出されるようなことをした覚えはあるか?」
「もちろんないよ。まぁ、合奏のときならいくつかあるけど、曲にならないほどのミスはしてないからね」
「俺もだ。」

2人は会話をしながら準備室へ向かう。準備室とは、音楽室の隣にある小さな部屋のことで、音楽教諭が使用している。基本、生徒は立ち入りが禁止されている。
準備室の前まで来ると、鬼道は扉をノックしてから開けた。

「…失礼します」
「失礼します」
「あぁ、来たか」

机に向かって作業をしていた久遠は2人と向き合った。

「先生、話ってなんでしょうか」
「…2人は、校内の芸術発表会があるのは知ってるな?」
「はい」
「知ってます。冬休み明けにあるやつですよね」
「そうだ。急な話で悪いんだが、2人にはそれにソロで出て欲しいと思っている。理事長のご指名だ」
「………は…?」
「……本番まであと二週間しかないんですよ?」
「大丈夫だ。一週間で譜読みして、三日で仕上げて残りは伴奏と合わせればいい。だから譜読みが早く正確に出来て、技術があるお前たちを選んだ。ちなみに曲は私が決めた」
「では、伴奏は誰が?」
「………自分で探してくれ」
「え…」
「……(この先生、絶対考えてなかったよ…)」
「話は以上だ。譜面はそこのピアノの上だ。コピーして使うように」
「分かりました。失礼しました」
「失礼しました〜」

鬼道と士郎は、ピアノの上に置いてあった楽譜を取って準備室を出た。

「なんか、大変なことになっちゃったみたいだね」
「…随分他人事だな」
「そうかな?でも楽しそうだよね、ソロって」
「まあ、周りを気にしないでできるからな」
「うん。鬼道くんは伴奏やってもらう人は決まってるの?」
「あぁ、断られると思うが、候補はいる。士郎もいるんだろう?」
「うん、ダメ元で頼んでみるよ」
「そうか。じゃあとりあえずコピーしに行くぞ。伴奏の話はそれからだな」
「はーい」

そう言って2人は楽譜をコピーするために印刷室へ向かった。





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なんか、予想以上に長くなってしまった…(^^;たぶん、続きます


#補足
芸術発表会…美術と書道の展示もします


タイトルは、さしもしらじな様からお借りしました。ありがとうございました!



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