(春世→圭/片思いネタ)



苗代春世は困惑していた。こんな想いになど、気付きたくなかった。17年間人並みに恋愛をして、付き合った女性もそれなりにいた。これまでの恋愛はいつだって楽しかったし、トントン拍子に付き合うことが多かったためあまり苦労したことも無ければ酷い別れ方をしたこともなかった。


それ故考えたこともなかったのだ。胸に抱く恋情が時としてこんなにも鋭利で残酷な刃に変わること。求めることが罪だというなら、想うことさえ許されないのか。溢れる感情に比例して膨れ上がる罪悪感がずしりと重く彼の胸を支配していた。



「どうしろっていうんだ。」



花鳥圭の隣は居心地が良かった。いつだって程よい距離感と穏やかな声色が春世の心を落ち着けた。彼は周囲に関心が薄いようで実は誰よりも人をよく見ている。そっけない態度の裏に秘められた愛情の深さを春世はよく知っていた。


かけがえのない存在だった。彼に抱く興味も関心も、すべて友に対する純粋な好意であると信じていた。けれど気付いてしまった。彼に惹かれている。いつの間にか執着していた。触れたいと思った。たとえどんなに思いが募ろうと、胸を焦がすこの感情の名を口にすることはなかったけれど。



「圭ちゃんにだけは嫌われたくない。」



言えるはずがなかった。やっとの思いで築き上げたこの関係が壊れることが何より恐ろしかった。だから、例え想いが報われずとも友人でいることを選んだ。自分で決めた選択だった。何があっても貫き通すと決めていた。それなのに、どうしてこうも自分は弱いのだろう。今ではその選択を酷く後悔している自分がいる。



「苦しくてオレ、どうにかなりそうだ。」



傍にいれば触れたくなる。触れれば求めたくなる。そんな想いをどうにか押し殺し彼に笑いかける自分が心底嫌いになりそうだった。相手の為にとセーブしたこの感情でさえ、恐らく所詮は傷付くことを恐れた自分のエゴでしかないのだろう。恋は人を貪欲にさせる。抑えど抑えど溢れてくる行き場のない感情を殺すたび、春世の中で大切な何かが音を立てて崩れてゆく。心が悲鳴をあげていた。限界だった。



「好きになって、ごめん。」



もう一緒にはいられない。


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