(春世side)


「圭ちゃーん!お昼食べよぉ〜」

「お前もよく飽きないよな。」

「圭ちゃんに?飽きるわけないじゃん。ああ〜〜午前ぶりの圭ちゃんっ、マジ癒し…ちょっと抱き締めていい?」

「ぐぇ」



昼休み、昼飯を食いにオレ、苗代 春世(なわしろ はるせ)がわざわざ隣のクラスまで足を運ぶ理由はただ一つ。それは彼、花鳥 圭(あとり けい)にあった。圭ちゃんはオレの癒しであり、オアシスだ。毎日甲斐甲斐しく彼の元に通うオレは、3組でもちょっとした名物となっていた。歓迎するように手を振ってくれる女子達に笑顔で手を振り返す。「苗代も飽きないよなー」とか「彼女かよ」とか数名の男子がヤジを飛ばしてくるが、そんなのもの今さらだ。気にしてられるか。


ただ今後ろから抱きついて圭ちゃんを充電中。あぁ〜幸せ。なんなの圭ちゃんてマイナイスオンでも出てるの?三限の授業サボって中庭をほっつき歩いていたら運悪く一組の鬼教師こと鬼塚に見つかり捕縛、生徒指導室でこってり絞られHPが今にも底を着きそうなボロボロのオレには大事な儀式だ。


オレがたっぷり圭ちゃんを堪能している最中、後ろから「苗代って実際ホモなの?」という男子の小声が聞こえたけど無視した。知らん、ほっとけ。俺の至福の時間を邪魔するな。


面倒くさいから心の中に留めておいたけど、その後すぐに「あとりん取られたからって嫉妬すんなよー」と女子。誰かわかんないけどフォローありがとう。苦しそうに声をあげながらも抱きつくオレを邪険にしない圭ちゃんにキュンキュンして胸が苦しい。もしかして恋?


オレは圭ちゃんが好きだ。とはいっても恋愛感情ではない。と思う。恋だとかそんな浅はかなものではない。これはそう、愛だ。オレは全身全霊で圭ちゃんを愛してる。圭ちゃんはどこか動物に似ていた。人懐こい犬というよりかは、隙がありそうでどこか人見知りする猫というか…そんな感じだ。そんな彼がどういうわけか自分に心を許してくれている。なにこの優越感。胸が苦しい。もしかしなくても恋?



「春世、息、できない。」

「あ、ごめんごめん。」



オレの抱擁に圭ちゃんが本気で苦しそうな顔をしたので慌てて体を離す。危ない危ない。怒ったかなと心配になって圭ちゃんを見れば、殺す気か、なんてジト目で睨んでくるものだから震えた。ちょっぴり上気した頬が可愛くて思わずスマホで激写してしまった。ごめん圭ちゃん。だってそんな不可抗力!


圭ちゃんは同じクラスの奥村、淳、青衣たちと仲が良かった。はじめは昼飯も四人で食べていたみたいだけど、オレの熱烈なアプローチの甲斐あって今では自分を加えこの5人で昼食をとることが多くなった。一人だけクラスの違うオレだったけど、今では他のこいつらとも仲良くやってる。



「圭、お前も鬱陶しいなら鬱陶しいってちゃんと言わなきゃダメだぜ?言ってやんなきゃこいつ一生わかんなそうだし。」



前言撤回。奥村は嫌いだから仲良くない。頼まれても願い下げだ。いつの間に圭ちゃんの隣に陣取ったヤツは忌々しげにオレを見据えてきた。奥村 辰巳(おくむら たつみ)、圭ちゃんの幼馴染で俺の宿敵。あーホントこいつ苦手。顔見るだけで腹立つからある意味すごい。



「ごめんね?そう嫉妬するなよ奥村。」

「圭も大変だよなぁ。春世といい秋山といい、昔っから変な奴にばっか好かれるだろ。」

「もう慣れた。」


ジューっと紙パックのコーヒー牛乳を飲みながら圭ちゃんが答える。華麗に無視を決め込んだ奥村にもイラっとしたけど、オレはそれどころじゃなかった。えっ、慣れたって、えっ?オレあの変態秋山と同列なの?嘘でしょ。本当だったらちょっとショックすぎて立ち直れない。思わず涙目になりながら圭ちゃんにすがりつけば、圭ちゃんは珍しくちょっと驚いたような顔をしてオレを見つめた。そしてしばらくすると困ったように奥村の方を向く。




「辰巳、あんまり苛めてやるなよ。」

「違ぇよ、圭。お前が肯定したからだろ。秋山と同列の変人だって。」

「…俺?」



やめろ、圭ちゃんを責めるな。圭ちゃんは悪くない。てかそのせいでオレが嫌われたらどうしてくれるんだこの野郎。奥村にそう歯向かってやりたかったけど、「秋山と同列」が思った以上にオレの心に効いたらしい。ちょっと目頭が熱い。


全力で気のせいであってほしかったが時すでに遅く。情けない話だが、メンタルブレイクして本格的に泣きそうになってしまった。豆腐メンタルかよオレ、弱すぎるだろどんだけだよ。勿論いつもはこんなんじゃない。圭ちゃん限定だ。圭ちゃん限定の豆腐だから勘違いされたら困る。潤んだ視界に気付かれないよう咄嗟にうつむくと、オレは弱々しく圭ちゃんの学ランの袖を引いた。ちょっとトイレで顔洗ってこよう。落ち着こう、オレ。




「ごめん、圭ちゃん。圭ちゃんは悪くないから…。」




ショボくれた声でそう告げる。オレは速やかに教室を出るため圭ちゃんの傍を離れようとしたのだが、するとふいに立ちあがった圭ちゃんに行く手を阻まれてしまった。ごめん圭ちゃん、頼むから今はそっとしておいて。ノリの嘘泣き程度ならなんてこと無いが、さすがにマジ泣きする男子高生はオレも引く。いやオレのことなんだけど。従ってオレは圭ちゃんに引かれたくないので直ちにこの場を離れたい。だから頼む圭ちゃん。一生のお願いちょっとそこどいてぇええっ!



「ごめん、春世。機嫌直して。」



その時、優しい言葉と共にぽんぽん、と圭ちゃんの手がオレの頭を撫でた。びっくりして顔色を伺うようにおずおずと顔をあげれば、困ったように笑う圭ちゃんの綺麗な顔にオレは思わず見惚れてしまう。



「圭ちゃん…。」

「ほら、これやるから。」



そう言って購買で買ったグミを差し出してくる圭ちゃんは本当にずるいと思う。それもオレが好きなピーチミント味だ。これは校内でも好き嫌いが分かれる味で、好んで買ってる物好きは俺を含め数えるほどしかいないから尚更だ。本当に圭ちゃんには敵わない。気がつけば溢れそうだった涙も引っ込んで、俺は思いっきり圭ちゃんに抱き着いた。



「圭ちゃん〜〜〜っ」

「うわっ!?」



俺が圭ちゃんを好きな理由。あり過ぎてきっと伝えきれない。

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圭好きーの春世とその扱いを心得てる圭と、春世相手になるとなぜかケンカ腰になってしまう辰巳のお話。春世をマジ泣きさせる秋山君のポジションですが、とりあえず変わり者のヤバい奴という認識。

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