(side)


「今日母親の誕生日でさ。ケーキでも買ってってやろうかなって。」


小っ恥ずかしいんだけどさ、と辰巳は言った。帰り際に交わした言葉をふと思い出す。あいつの家は賑やかそうでいいなと思う。羨ましいのとはまた違うんだけど、なんだか楽しそうだ。若干ボケ始めたじいちゃんとの二人暮らしもそれはそれで面白かったりするんだけど、なんといってもやっぱり華がない。


「誕生日かぁ。」


じいちゃんは年に3回は俺の誕生日を祝おうとしてくるけれど、考えてみれば俺から誰かの誕生日を祝うことはあまりなかった。じいちゃんについては自分の誕生日を覚えていなかったからだ。

誕生日といえば普通はどんな感じなんだろう。料理にケーキに…飾り付け?あとはプレゼントだろうか。まあ、そんなもんだろう。ちなみにうちはボロい骨董品屋を営んでいて、誕生日といえばよくわからない石やら置物やら(俺からすればほとんどガラクタ)をよく貰ったものだ。一応、全部とってある。

そういえば、青衣の誕生日はいつだったっけ。忘れていたことになんだか罪悪感を覚えながら急いで思い出そうとする。けれど、よく考えたらそもそも誕生日など知らなかったことに気が付いた。


「いけね、今度聞いとかなきゃ。」


大切な友人の誕生日さえ知らなかったショックが思いの外大きかったらしく、帰り道の足取りはいつもより少し重く感じられた。高校に入ってから、青衣とはずっと一緒に連んできた。自分で言うのもあれだが、俺は青衣を親友だと思っている。もともと付き合いは広いタイプだが、周りが思うほどに深い付き合いをしている訳でもなかった。

それなのに、俺はそんなあいつのことさえよく知らないことが多い。考えてみれば誕生日だけではないのだ。家族のこと、昔のこと、得意なもの、将来の夢とか、いろいろ。


「自分から話すようなやつじゃないからな、青衣って。」


幼かった頃とは違い、ある程度の歳になれば確かに自分のことを進んでベラベラと話すやつは少ないだろう。でも、それでも、やっぱり寂しいじゃないか。そう思うのは俺だけなのか。


「俺、思ったより信用されてねーのかな。」


そう呟くと、ますます弱気になってきた。一瞬目頭が熱くなったのはきっと気のせいだ。そうに決まってる。ネガティブになりかけた自分の頬にバシッと喝を入れ、俺は今日ひとつの決心をした。このままでは男が廃る。


「青衣め、明日から覚悟しとけ。」


あいつ何も話さないから
(俺から踏み込むしかないじゃん。)
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