(青衣 IF 悲END ネタバレ注意)


淳の首に手を伸ばす。健やかな寝顔に目が離せなくなる。穏やかに上下する胸に、手のひらの温度に、堪らなく怖くなった。この温もりを、自らの手で奪うこと。


「馬鹿だな、俺。」


早く気が付けばよかったんだ。そしたらとっくに傍を離れて、今ごろ他の食事にありつけていた。そう自分に言い聞かせてみたけれど、やっぱり胸の違和感は消えないままで。


「…………」


ああ、違う。とんだ言い草だ。そんなこと、始めからわかっていた。無理だったんだよ。ずっと、目を背けていただけで。

淳を見つけたあの日から、他の生肝など食する気になれなかった。選んだのは自分だと思っていたけれど、思いの外俺は淳に縛られていたらしい。離れなかったのは、離れられなかったのは、俺だ。一緒にいた時間が楽しくて、いつの間にか二度目の冬が来た。


「淳のこと、嫌いになれば良かった。」


無防備な獲物を目の前にして、情を湧かす馬鹿がどこにいる。ましてやヒトの振りをして生活の真似事までしていたこの痴態、美景の同胞はどう思うのだろう。食わなければ自分が死ぬ。俺は烏だから。妖にはヒトの心など理解できないと、本気でそう思っていた。

けれども時は残酷で。『違和感』に気付いた時には何もかも手遅れだった。胸に芽生えた生ぬるく厄介な感情は水面下、静かに俺の体を蝕み続け、獣の本能さえ呑み込んで、妖として正常な判断を鈍らせた。

おかげで身体は衰えるばかりだ。長く山を降りたせいで、この体にも大分ヒトの匂いが移ってしまった。これでは今さら仲間元にも帰れまい。挙げ句の果てには最近じゃ、どうやらついに涙腺まで脆くなってしまったようで。今だってこうして、情けなくも止めどなく溢れてくるそれに戸惑いを隠せないでいる。


「俺、淳は食べないよ。奪えるわけなかったんだ。今頃気付くなんて、遅すぎるんだけど。…だからさ、淳。あのさ。」


ーーーここで、一緒に寝てもいいかな。



「ん…、青衣?」

「…………」


見上げた空は青く澄み渡り、どこまでも、どこまでも、遠く。一緒に行けると思っていた。


淳と会えてよかった。


たとえばこんな結末
(馬鹿みたいだろ。)
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戻ル

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