「綺麗な紫色の瞳ね」
「まるでアメジストの宝石みたい」
彼女がそう言った。
僕の頬を撫でる彼女の手は、まだ温かくて生きているんだと実感した。
元々『生』なんて概念の無い僕には、体温なんてある筈も無くて、彼女は驚いていたけど。
「私には貴方が見えているもの。私の目の前に居る。それで充分じゃない」
そんな事を彼女は言った。
僕が『視』えているという事は、もう手遅れという意味なんだけれども、彼女はそれを知らない。
僕はただ、寿命が来た者の魂を『冥界』へ運ぶ存在。
それ以外は何もしない。
それが理。僕は自分の管轄外には手を出さない。出しちゃいけない。
「今日は体調が随分と良いの。お父様は外に出るなと言っていたけれど、内緒ね」
そう言って彼女は家を出た。
そして彼女は事件に巻き込まれた。
寿命で亡くなった訳じゃないから、僕じゃ『冥界』へ連れて行けない。突然死は他の奴の管轄だ。
だけど彼女は『冥界』も『天界』へも逝けなかった。
彼女が巻き込まれた事件は、グールが関係していた。グールは生きている者の魂を食べてしまう事があると聞いた事があった。
だから、彼女の魂が世界のどこにも無い事に納得出来た。
でもせめて『冥界』へも『天界』へも逝く事が出来なかった彼女に、埋葬されても浮かばれない彼女に、愛を込めて鎮魂歌を送ろう。
ああ、やっぱり情なんて持つんじゃなかった。