相思想愛 | ナノ



そうそう、そう言えばこんな話を思い出してよ。

何かを思い出したように、そして楽しそうにその魔女は口を開いた。

私に時間や時空といった概念は無いのだけれど、そうねぇ、今から五百年くらい前かしら。一人の猫と一人の狐の話なのだけれど、退屈にはならなくて?

魔女は問い掛けるように訊いてくる。しかし、彼女はこちらの意見などまるで聞く耳を持たぬかのように、話す。こちらに決定権はないのだ。ここでは彼女が全ての決定権を持つ。

猫の方は随分と気性の荒い性格でね、人間からは恐れられていたわ。尤も、彼にとって人間は忌むべき存在であったから、仕方ないといえば仕方ないのだけれどね。
その猫とは対照的だったのが狐の方ね。彼女は人の世話を焼くのが大好きでね、困っている人間を見るとつい手を貸したくなるのよ。

その魔女は優雅な仕草で紅茶を一口飲んで、こちらに問い掛けた。

そのように真逆な猫と狐はお互いに仲が良かった事をご存知?

ただ黙って首を横に振った。

そうよね、だって今はまだ二人が会話しているところをご覧になった事が無いわね。

魔女は最初から知っていたかのように、こちらに微笑み掛けた。こちらの都合すら、彼女の手の内のようだった。

お互いはお互いに実力を認め合っていたの。その時には二人とも神にも等しい力を持っていたのかも知れなくてね。ひょっとしたら、あの出来事が無ければ二人とも神となっていたのかもしれなくてね。

あの出来事?

あら、それに興味がおあり?

初めて反応を示したこちら側に、魔女は面白そうに話す。

私の口から全て話しても良いのだけれど、それではあなたも満足しないでしょう?私が話すのは触りの部分だけ。私の言葉で自由に考察なさって結構よ。

あら、そんなお顔をなさらないで。

魔女のいう意味が判らず、こちらは表情に出ていたようだ。

第三者の目線より、本人達から聞いた方が面白い話もあるでしょう?尤も、主観で語られるより、客観から語った方が判りやすくて面白い事もあるものだけれど。

話を戻すわよ。宜しくて?

ただ黙って頷いた。

あの出来事が無ければ二人とも神になっていた、と私は言ったわ。それはつまり、今はどちらかが神ではないか、或いは両方神ではないか。そうなる事は語理解出来て?

まるで言葉遊びのようだ。

あら、私の話なんて言葉遊びにもならなくてよ?
今は狐の方が神となったかしら。猫の方は一度『冥界』へ行ってしまったから、神にはなれなかったのかもしれなくてね。

『冥界』へ行くと神にはなれない?

さぁ?それは知らなくてよ。ひょっとしたらなれるかもしれないし、なれないかもしれない。そこは気まぐれとしか言いようがないわ。誰の?

さぁ、誰かしらね。

魔女は少しだけ笑った。
そして最後に彼女は一言だけ言った。


互いに想い過ぎてそれが逆効果になる事もあるという事よ