跡部ッキンガム宮殿で働く [ 3/4 ]

「俺様の家に来い。住み込みで働かせてやる」



『ん…懐かしい夢だな〜』

半年前、両親が他界し会社も倒産。
転校を余儀なくされた私に彼が言ってくれた言葉だった。

無一文の私を救ってくれ、住み込みでメイドとして働かせてくれた上に学費まで出してくれている。

本人いわく私の給料から出しているらしいが絶対嘘だと思ってる。

『あ、時間時間』

可愛い見た目とは逆に動きやすいメイド服に袖を通し(何故か他のメイドさん達よりスカート丈が短い)長い長い廊下を歩いて食堂へ入る。


『おはようございます。』

茶葉にお湯を注いで蒸らし、料理長さんから朝食を2人分受け取り
また長い長い廊下を歩いて扉を静かに開く。


『おはようございます、景吾様。』

「ああ、おはよう」

既にシャワーを浴びて制服に身を包んだ景吾様がドイツの新聞を読んでいた。

ティーカップに紅茶を淹れてテーブルに置く。

『本日はレディ・グレイの新茶が届きましたので早速使用してみました』

「トワイニング社のやつか…美味いな」

『朝食の方はクロワッサンとスコーンが焼けておりますが』

「クロワッサン」

『かしこまりました。』


朝食を次々並べ、向かいには自分の分を並べる。

『用意ができました』

「ああ、」

『いただきます』


景吾様が食べ始めたのを見て自分も食べ始める。
本当にこの家のご飯は美味しい。
家のご飯も美味しかったけれど。

ここに来る前は家族皆で食事をとっていた。
そのことを景吾様にお伝えした所、お食事をご一緒させていただけるようになった。

私が寂しい思いをしていたのを見抜いていたらしい。



食事を終え、食器を片付け制服に着替える。
なるべく早く、丁寧に。

『お待たせいたしました。』

「行くぞ」


登校する時も車の中で待っててくださるし、
学校の少し前の人通りの少ない路地に車を停めて少し距離を置いて徒歩で学校へ向かう。

本当に優しい人だ。
そのお陰で私が景吾様に仕えていることは誰も知らない。

「おはようさん、エンペラーちゃん」

…この人以外は。


『おはよう、忍足君』

「侑士でええ言うとんのに」

『そんなことしたら女の子達に睨まれちゃうよ』

「せやから跡部のことも外じゃ跡部様言うとるのか」

『うん』


忍足君は1年の時から同じクラスで席が隣になったこともあり仲がいい。

仲がいいと言っても会ったら話す位の仲だけど。
忍足君のファンは景吾様のファンに次ぐ過激派で、少し話しただけでも睨んでくるからあまり長話はできない。
忍足君もそれを解ってるからちょうどいい長さで話を打ち切ってくれるから助かる。

これでファンに何かされたら景吾様が気を使ってくださってるのに意味がなくなってしまう。


「よーし、授業始めるぞ」



*****

授業はあっという間に終わり、昼休みを告げるチャイムが鳴った。
購買でパンとプリン(ただし一流シェフが作った高級品)を買ってできるだけ早く食べて図書室へと向かった。


扉を開けて中に入り、机の上に分厚い参考書を広げて早速取り掛かる。

「あれ、エンペラーちゃん」

『うわあああっ、忍足君!?びっくりしたー』

急に耳元で吐息がかった声がして飛び跳ねる。
ゆっくりと振り向くと人の良さそうな笑みを浮かべた忍足君が立っていた。

「そない驚かんでも…」

『いや驚くでしょ。
なんで忍足君がここに?お昼は?』

「借りてた本返しに来たんや。昼はこれから。
エンペラーちゃんは勉強?」

『う、うん…ちょっと受験勉強みたいな…』

「何で?うちはエスカレーター式やん
外部でも受けるんか?」

『勿論第一志望は氷帝だよ。
特待取ろうと思って。それで特待取れなかったら外部の安い所かな』

「でも跡部が払ってくれとんのやろ?」

『そうなんだけど、あんまり迷惑かけたくないの。
私は学費+給料分も働いてないし。』

「そんなん心配せんでもエエんちゃう?」

『景吾様は優しいから私を助けてくれてるけど、でも甘え過ぎるわけにはいかないよ。高等部はもっと学費高いし』

「優しい…なあ、
俺は跡部は何とも思ってない奴に優しくするとは思えへんけど?」

『?』

「気付いてへんの?跡部は「おい、何をしている」…跡部」

『景吾様!?』


忍足君の言葉を遮るように景吾様が入ってきた。
何だかいつもよりピリピリしてる気がする…


「ハァ、じゃあ邪魔者は退散するわ。
跡部」

「あん?」

「早くせんと姫さんは貰ってまうで?」

忍足君は何か小声で景吾様に言って出て行ってしまった。


広い図書室には私と景吾様だけ。

少しの沈黙の後景吾様が口を開いた。


「お前、忍足と何を話していた」

『へ!?あ、えっと』

今景吾様にバレるのはマズイ

忍足君の言う通り特待なんてとらなくても、景吾様なら高等部へ行かせてくれると思う。
だからこそ、甘える訳にはいかない。


『なんでも…ないです』

「…ほう」

一歩一歩景吾様が近づいてくる。
私は何となく怖くて、景吾様が一歩近づくと一歩後ずさる。

トンッ

背中に冷たい壁の感触。
しまった、と思う頃には私の両脇には景吾様の腕があった。


「俺様には言えないようなことでもしていたのか?」

『へっ?』

「そうだな…例えば」

『ひゃうっ』

景吾様は首元に顔を埋めるとそのまま首筋に舌を這わせた。
ゆっくりと上へ向かい耳の中まで舌が入ってくる感覚にビクビクする。

「忍足とこういうことをしていたのか?」

耳朶を甘噛みされ囁かれる。

『ちがい…ます…っ』

スッと氷のように冷たい手が頬をなぞり、段々と下へ滑らせクイっと顎を掴まれる。
目線を上げると綺麗なアイスブルーの瞳から目が離せなくなってしまった。


「エンペラー」

『はっ、はい』

「命令だ、俺様の女になれ」


いきなりのことに目を見開いたが、アイスブルーの瞳があまりにも真剣で

『は…い。』

そう答えることしかできなかった。

頭がぼうっとして、気付いたら景吾様の腕の中にいた。


『景吾様…あの、離していただきたいのですが』

「やっとお前が手に入ったんだ。少し位いいだろ」

『へ?"やっと"…?』

「お前、俺様が何とも思ってない奴を雇ったり側に置くとでも思ったのか?」

『それって…んっ』

引き寄せられ、深いキス。
時が止まったみたいに長く、長く。


「ずっとお前が好きだった。初めて見たときからずっと。」

『景吾様…』



*****

『おはようございます景吾様』

いつものように扉を開くとベッドには景吾様はおらず

『景吾様!?』

書類が沢山積んである机で寝ていた。

『景吾様!!起きてください!!』

「ん…朝か」

『早くシャワー浴びてきてください!!』

「ああ」

ゆっくり起きた景吾様は何故かこちらに向かって来て私の顎をクイっと持ち上げニヤリと笑った。

「一緒に入るか?」

『!!!?』

「フッ、冗談だ」

ちゅっ

「紅茶頼むぜ、
お前の淹れた紅茶が一番美味いからな。」

『は、はい!』





〜オマケ〜

Q 何故忍足は跡部様にあんなこと言ったんですか

A ラブロマ的展開でおもろそうやったから、やな←関西人




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