4.空白を埋めるように
あぁ、どうしよう。また泣いちゃう。夢でも見ているみたいだ。
「あー、泣くなッショ」
巻島くんの大きな手で顔が抑えられる。彼の顔どころか周りの景色すら見えなくなった。
「な、泣かない!泣かないから!」
そう言うと手がゆっくりと離される。
「あー、その、よ。気になってたんッショみょうじのこと。ずっとよ。ただイギリス行くこととか部活のこととかゴタゴタしててよ、こんなときにワリィな」
胸が苦しい。嬉しさできゅうっとなってどうしたらいいか分からなくなる。彼もなんだか気まずいのか照れくさいのか頬をかいている。
「巻島くん」
「何だ?」
「好き」
「おう…」
「好き」
「俺もッショ」
えへへと笑いかけると彼も笑う。想いを告げたあの日から隣に立てるまで、約1年。
差し出された手をぎゅっと握ると、暑さのせいか彼の熱を強く感じた。
「なまえ」
ふいに名前を呼ばれ彼を見上げると彼もじっと私を見つめる。
「キス、してもいいか…?」
照れくさそうな彼に、つま先立ちで触れるだけの口付けをーー
(空白を埋めるように)