3.おもいでの場所で

久しぶりに母校に来た。特に何か思ったわけではない。ただなんとなく、なんとなくだった。

誰を待つわけでもないのに、裏門坂のてっぺんから坂の下を眺めていた。高校生のときは、此処を凄い速さで通る自転車が怖かった。巻島くんもその中にいたんだっけか。

「ようみょうじ! また会ったな!」

振り返るとそこに居たのは田所くん。巻島くんと運命の再会を果たした日に彼とも久しぶりに顔を合わせた。ガハハと豪快に笑う彼はいつ見ても大きい。そんな大きな背中の奥から、よう。なんて軽く手を振る巻島くん。あぁ今日もかっこいいな、なんて気持ちは簡単には変わらない。

「また会ったね、田所くん、巻島くん」

もう会うことなんてないだろうと思っていただけに嬉しい。星座占いで1位だったおかげだろうか。

「にしてもこんなとこで何してんショ。あちぃだろ」
「なんにもしてないよ。気づいたらここに来ちゃってた」

クスクスと笑うと巻島くんはハァと小さくため息をつく。

「巻島!俺アイス買いに行ってくっから!」
「えっ、ちょっ田所っち!」

じゃあな!と言い残し田所くんは去っていった。嬉しいような恥ずかしいような…だいたい田所くんはこの前私と巻島くんが何も喋れなかったの見てたはずなのに…。

「あー…。みょうじ。覚えてるか?」
「へっ?」
「此処。俺達毎日走ってたッショ」
「うん」
「たまにお前がさっきみたいにじーっとこの坂見ててよ。なんだあいつって部内で軽く噂になってたッショ」
「えっ」

確かに時々裏門坂には来ていた。それもこれも巻島くんが好きだったから。此処で練習しているって聞いてたまに見に行ってたのだ。こっそり行ってたつもりだったんだけどなぁ。

「まぁ特に何かあったわけでもなかったし何も言わなかったんだけどな」
「バレてたんだね…? いつから?」
「3年の春らへんッショォ」
「そっかぁ。でもね、実は2年の秋にもちょっと見てたんだよ、なんて本人に言うことじゃないか。怖がらせてたんだったら、ごめんね」
「別にいいッショ」

会話が途切れる。肌にじんわり汗が噴き出し、コンクリートから反射された熱が攻撃してくる。

「みょうじ」
「は、はいっ!」
「まだ、俺のこと好きか?」
「はいっ!!」

顔が真っ赤になった。巻島くんは顔を隠してブツブツ言ってる。

「巻島くん!そ、その」

ゆっくりと口が開く。

「1年経っても、私は巻島くんが好きです」

この気持ちは変わらない。真っ直ぐと彼を見つめると彼は顔を真っ赤にしながら口元を覆っていた。


「俺も、みょうじのことが好き…ッショ…」


(おもいでの場所で)


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