2.変わらないふたり

「何泣いてんだよ」

目から大量の涙を零す私に彼は困ったように眉を下げる。本物? なんて失礼なことを口走ると彼は思いきり笑い出した。

「クハッ、幽霊でも幻想でもねーぜ。ほら」

右腕をとられ彼の胸板に当てられる。心臓の音と体温が伝わる。本物の巻島くんが此処にいる。

「でも、なんでっ…」
「なんっつーか、後輩の応援…ッショ」

自転車競技部のインターハイはどうやらこの時期らしい。もしかしなくても去年の私はそんな忙しい時期の彼を呼び出してたのか…。なんか申し訳なくなってきた。

「相変わらずだな、みょうじ」
「えっ?」
「すぐ泣くとことか顔コロコロ変わるとことか」

想い人からそんなことを言われると顔が赤く染まってしまう。

「巻島くんも、変わってなくて、よかった。」

服装以外…と小さく呟くと、私服は元々こんなッショと返された。私は巻島くんの私服はじめて見ました。

へへへと笑いながら、お互い口下手で上手く次の言葉が出ない。黙っているのはよくないんだろうけど、巻島くんが傍にいるってだけで私は嬉しくて…。

数分後、田所くんが巻島くんを迎えに来るまで特別何か話すことはできなかった。


(変わらないふたり)



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