1.いるはずのないひと

1年前の今日。私は此処で彼に思いを告げた。

「好き」

そう伝えた。彼は顔を真っ赤にして気まずそうに頬をかいてたっけ。

「俺なんかで良いのか」

なんて野暮なこと。

「巻島くんが良い。私は巻島くんが好きです」

泣きそうになる。胸が苦しい。

「ありがとッショ…。だけど俺…もうすぐイギリスに行くんショ」

涙がこぼれた。イギリス? イギリスってあのイギリス? 遠すぎるよ。どれだけ待ってても、もう会えないかもしれない。


「会いたいなぁ…巻島くん…」

小さく呟くと、後ろから聞き覚えのある笑い声。

「クハッ。よう、みょうじ! 調子はどうだァ?」
「巻島…くん?」

大粒の涙がこぼれた。おかしいな、こんなとこにいるはずないのに。嬉しいな。幻想でもいい。貴方に会えた。

(いるはずのないひと)


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