4.この温もりさえ嘘なんだ

「抱いて」
「何だ?おめさんにしては珍しいこと言うな」

酔った?なんて笑いながら彼は私を抱き寄せる。軽くアルコールが入った頭はくらくらと重く簡単なことで揺れてしまう。ふわふわとした世界から現実に繋ぎ止めてくれるもの、それが他人の温もりだと私は思う。だから私は一人で呑むより二人で呑む方が好き。

新開隼人は優しい。いつも私を壊れ物のように扱う。たかがセフレだし、貴方は顔もいいんだから適当に抱いても代わりはいくらでも作れるよ、なんて心の中で呟くが彼に届いた試しはない。別に彼が優しくしてくれることを嫌だと思ったことは無い。でもたまには壊れるくらい激しく抱かれてみたいなんて思ってしまうこともあるのだ。もしかしたら私がとんだ厭らしい女なだけで彼はこういう他人を気遣ったセックスが好みなのかもしれない。

「壊れるくらい激しいのがいい。いっぱい抱いて私を壊してみてよ。ね?隼人くん」

アルコールの力は偉大で、普段言えないようなことも飄々と口に出せてしまう。理性より本能が先走ってしまう。甘えた声を出して首筋に擦り寄ると彼は真剣な目つきでこっちを見てくる。

「後悔すんなよ?煽ったのはそっちなんだからな。嫌って言って止められるほど優しくはできねえから」

気づけば目に映るのは天井と彼。変なスイッチ入れちゃったかな、なんて自分が煽った癖に何を言ってるんだか。一夜だけでいい、彼の温もりを全身で感じてみたかった。そんなことを考える余裕すら彼は与えてはくれない。溢れんばかりの口付けと愛撫に私は翻弄され、服を脱ぎ捨て、外気に晒された肌と肌が互いを求め、触れ合い、熱を感じ合う。もっと、もっと、溶け合うくらいこの熱に浮かされていたい。ずっと好きだったから。

「おめさんの事が好きだ、ってこんなときに言うもんじゃないか。な、なまえ」


(この温もりさえ嘘なんだ)
(そう思ってた昨日までの私とは)
(もうさようなら)


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