寡黙不器用副会長×タチ流され会長






(何だこの状況は何だ何だ、何だ)



異様に高鳴っている胸とひどく近い場所にある男前な顔にどうしようもない混乱に陥りながら、

海城学園生徒会長である永浦正は――つい20分ほど前の出来事を、必死に思い出そうとした。




***



校庭に響く運動部の掛け声が窓の隙間から入り込んでくる中、薄暗い生徒会室で二人の生徒が無言で机に向かっていた。
時刻は既に5時を少々回っており、校内には部活動に励む生徒の姿も徐々に少なくなってきている。
カーテンの向こうで橙色の太陽が沈みつつあるのを長身の黒髪の生徒がふ、と横目で見た瞬間、盛大なため息と共にバサバサッと資料の落ちる音が斜め横から聞こえ、ついとそちらに視線を移した。


「終わった!!っはー疲れた」
「…お疲れ様です」


机に突っ伏しつつ腹減った、喉乾いただのと突如として喋りだした相手に、黒髪の生徒――この学園の副会長の保田治樹は、淡々とポットの前に立ちティーパックの入った湯飲みの中にお湯を注いだ。湯気を立てるそれを溢さぬ様に持って行き、突っ伏したままの人物の前に静かに置く。
香ばしい匂いにぴくりと起き上がったこの部屋の主人とも言うべき人間、永浦正は、目の前に置かれた湯呑みを見て目元を少し弛めながら口を開いた。
「うちの副会長は本当気が利くなー…イタダキマス」
「…淹れたてで……熱いので、気をつけて…」
「あっつぅ!!!!!」
「……」
忠告を聞く前に既に口をつけていた相手に何も言わずにおしぼりを差し出せば、さんきゅ、と少々涙目になりつつも彼はそれを受け取った。
舌がひりひりするがおしぼりを当てれば少しは良くなり、今度は落ち着いてふう、と息を吐きかけ冷ましながら飲みだす。
やはり熱いが疲れきった体に心地よく染みてくるその味に、正ははあーと思わず息を吐き出した。

「今日は仕事多かったなー。今、何時だ?」
「5時13分です」
「おお。もうそんな時間か、んじゃ帰ろーぜ」

立ち上がり盛大な伸びをしながら欠伸をかみ殺し、正は机の横に無造作に置いていた鞄を持ち上げた。
筆記用具やらノートやらをその中に適当に放り込みながらふ、と後ろを振り返れば、何故かそこに立ち尽くしたままの治樹が目に映る。
動こうとしない相手に訝しげな視線を送り、正はおい、と口を開いた。
「何ぼーっとしてんだよ。帰んねぇのか?」
「……いえ、その……はい」
「なんだその返事、どっちだよ」
はっきりしねーなーと笑いながら背を向ける正をしばらく眺めてから、治樹は自分の為に設けられた机の上に己の荷物を置いた。
カラスの鳴く声が、遠くで聞こえた。
校庭から届いていた生徒たちの声は今はなくなり、風がカーテンを揺らす小さな音を際立たせている。
ゆらゆら動くその動きを何も考えずに目で追っていれば、荷物をまとめ終えた正が振り返ったのが横目に見えて、思わず治樹は手を伸ばしていた。



「…っし!帰るかー。あ、治樹お前そこの窓、しめ……」







ガタンッ







突如として反転した世界に声を上げる間もないまま、部屋のど真ん中に置いてあった特注で頼んだソファの上に、正は押し倒されていた。
どさっ、と荷物が床に落ちる音が耳に届く。
おいあの中今日もらった差し入れあるんだけど潰れてねーだろうなと呑気な事が頭をよぎるがそれも一瞬で消え去り、すぐ目の前にある男の顔に視線が揺れた。
反射的に思わず押し退けようと相手の胸を押してみたもののびくともせず、逆にその腕をつかまれて抵抗さえままならなくなる。
大の男に圧し掛かられている何とも言えない今の状況に異議を唱えようと口を開いたが、出てきたのは少々情けない声だった。

「お、い…っ 何すんだよ、どけ…ッ」
「………」

己の言葉に何も答えない相手に不安だけが心のうちを支配する。
いつもは呼べばすぐに返事をすると言うのに、今はただその場で静寂を守っていた。
真剣にこちらを真っ直ぐ見つめてくる治樹が、誰か知らない別の人間に、見えた。
「…はる、き…っ」
「………正さん」
静かに名前で呼ばれた瞬間、ドクンと心臓がなった気がした。
いつもは会長としか言わないくせに、何故このタイミングで、そんな声で、そんな風に呼ぶのか。常ならば何だよと、軽く返事が出来る筈なのに、正は全く動けないでいた。
何を考えているか分からない瞳が、自分を射抜いている。知らないうちにじわりと、内側から汗が滲み出てきたのを感じた。


「…正さん、」
「…………っ、」


何だ、と問い返すつもりで開いた口は何も言葉を発さずに、代わりに空気が微妙に漏れただけだった。
ただならぬ雰囲気である事はいくら自分でも分かるが、体格差ではどうしても勝てない。
逃げ場のない状況に徐々に近づいて来る相手を拒否する事も出来ず、ただ身を硬くする事しかできない正に、治樹の小さいがはっきりとした声が告げた。





「―――…好き、です」



(……へ、)


目を見開いた。
相手の顔を、見る。真剣な瞳。自分を、自分だけを映す、その目。それが、近付いてくる。既に鼻先と鼻先が触れ合うほどの距離にいるのに、それでもなお。

完全に思考が停止した正が何か言葉を返す前に、少し強引に塞がれた唇の感触に思わずきつく目を瞑ればぬる、と舌が口内に入り込んだのが分かった。
驚いて離れようと必死で身を捩じらせるが無理やり押さえ込まれる。
舌を絡みとめられ口の中を蹂躙される事に何故か嫌悪感は沸かず、ただ背筋がぞくぞくとした。

気持ちが良いと、男に、仲間に、いつも自分の傍で言う事を聞いていた、男に――キス、されているのに。そう、頭のどこかで、確かに正は思った。


が、その後何度も何度も角度を変えては貪られる様なキスをされ、酸素が足りずにもう死ぬと本気で思い始めた頃。ようやく、思う存分満たされたのか治樹が少し離れ、正は解放された。


「…はっ……、…は……」
「あ、…大丈夫ですか?」

肩で息をする正にこんな状態にした張本人はケロリとした表情で、心配したような顔で覗き込んできた。
誰のせいだと言い返したいところだったがしかし少し気持ちよかったのを隠す為に、口元を拭いながら横目で相手を睨んだ。
「…なん、なんだよ、おまえ…いきなり、」
「…すいません我慢できなくて… あの」
「…………あ?」
未だ自分の上に圧し掛かってくる治樹にそろそろどけと言おうとしたがその前に再び顔が近づいてきて、思わず開きかけた口を噤んだ。
耳の後ろに舌を這わせられ妙な声が出そうになったがそれを押し込め何とか耐える。
それでも首筋をつい、となぞられびくんと体が揺れたのを見て、治樹が微かに笑いながら静かに耳元で問うた。


「…続き…やっても、良いですか…?」
「…っは!?」


確かに聞こえてきた言葉にギョッとして思わず聞き返せば、何故かすいませんと謝られた後制服の下に手がずいっと侵入してきて思わずひぃいいと情けない声が出た。
それでも早急にことを進めようとする相手に堪らず上擦った声で待った待った、と必死でタンマをかける。
挿入したことは何度もあるが挿れられた事は一度もない。そして恐らくこの相手は、今、自分に挿れようとしている。
何としてでもこの事態は回避したいところだった。―――半分もう遅いとは頭の中で分かってはいたが、足掻かずにいれる程男を捨てたわけでもない。話し合いが必要である、切実に。

「ちょ、ちょっと待て落ち着け!!おっま、ここを何処だとおも」
「誰も来ませんよこんな所」
「こんな所ってお前俺の聖域になんてこと、ヒッ!? ズ…ズボン、下げんな!!!」

問答無用で服を剥ぎだした治樹を半泣きになりながら止めようとしたが、あやす様に髪の毛を梳かれて思わず動きを止めた。
目元に落とされたキスが徐々に下に下りてきて、こそばさに身を捩じらせるが強い力で腕の中に再び引き戻される。これはもう抵抗しても無駄かも知れねえと半ば諦めの気持ちで体から少し力を抜いた、瞬間――下半身のものを握られてひゅっと喉が鳴った。
「はッ、や…ちょっと待てっん、さわんな…!!」
「触るなって……もう、結構濡れてますよ」
「うううるせ…ッひ、ァ!」
手で扱かれて確かに感じている事に盛大な羞恥を感じるがどうする事も出来ず、ただ声だけは漏れないように正は唇を強く噛み締めた。
居たたまれないが気持ちが良い事に変わりは無く、背筋を這い上がる快感に息が乱れる。
掘られかけてんのに何で感じてんだよ、と自分で自分に舌打ちをするが相手の手の動きは止まらない。くちゅくちゅ、と卑猥な音が聞こえるのがひどく耳障りだった。

「っ、は…ンン、」
「………後ろ、いっていいですか…?」
「!?っや、ちょ、ちょっと待て…っいッ!!?」

返事も聞かずにぷつ、と指が一気に何本か入れられたのを感じて、あり得ない場所から感じた激痛に、正は思わず目の前にあった治樹の肩に噛み付いた。
一本ずつではなくまとめて挿れてきた相手に信じらんねぇと心の中で盛大に怒鳴るがもちろん相手にはまったく聞こえない。ただ、小さく息を呑む音と共に微かに痛いです、という声が聞こえたが冗談じゃあないと叫び返したいところだった。
確実にこちらの方が痛いに決まっているだろうがと心の中で毒を吐きながらも、正は必死で、それはもう必死で、自分の中で動き回る異物感に耐えた。


「…正、さん?」
「っふ、……な、に……ッ」
「…あの、正さんってもしかして…処女、でしたか?」


問われた言葉に思わずはあ?と間抜けな声を出しかけたが急に指を抜かれてそれどころではなくなった。
いきなり何なんだ、と相手の顔を見ようとして顔を上げれば、生理的な涙で前がぼやけてあまり良く見えなかったが、少しだけ申し訳なさそうな顔をしている治樹が目に映り、こんな状況だと言うのに何だか物珍しく、思わず微かに笑ってしまう。彼のそんな顔を見たのは、初めてだった。
「…挿れられんの、は…初めて、だよ」
「……、 あの、」
「なん、だよ…じゃあ良いです、ってか?ハ、意外に…ヘタレ、なんだな」
「っ」
冗談で言ったからかいの言葉に相手の目が変わったのを見て、ぞくりとした。不味い、墓穴を掘ったかも知れんと思い慌てて何か取り繕うとするが時すでに遅く。
腰を強引に引き寄せられて息が詰まる。十分に、ではないが何とか慣らしたそこに宛がわれた固く熱を持った治樹のモノに、正は知らずに身硬くした。でかい。でかすぎる。何だ、これは。
唇に再び軽いキスを落とされた後、小さな言葉が耳元で、微かに聞こえた。



「初めてで、大歓迎ですよ」



瞬間、さっきの指とは比べ物にならない程の圧迫感が押し寄せてきて、叫びだしそうになったのを少しだけ残っていたプライドだけで何とか押し込めた。
目の端からボロボロ涙が出てきたのが分かるが拭う力さえ残っておらず、もう既に限界だというのに、相手のブツはまだまだこちらをズクリ、と浸食してくる。内に広がる熱が酷く鬱陶しかった。
何処か遠くで大丈夫ですか、という声が聞こえた気もしたが当然初めてでこんな大きいものを受け入れて大丈夫なわけが無く、死にそうな位痛いと言ってやりたかったが正は呻き声しか出す事が出来なかった。

「正、さん…っ、全部、入りました…」

熱い息と共に言われた言葉にそりゃ良かったな畜生、と心の中で毒を吐く。
動いて良いですか、と聞かれたものの正には頷く気力さえ残っておらず、結局は返答の無いまま治樹は律動を始めた。
相手のそれが奥の壁に突き当たるたび薄れる事などないと思っていた痛みが徐々に引き始め、まとわりつく汗さえどうでも良くなっていく。
ただ熱いと、熱でまともに動いていない頭でぼんやりと正は思った。
口付けられながら飲み切れない唾液が口元から伝っていくが気にすることも無く、声を我慢することも煩わしくなった。

「っヒ、う…っく、イぁッ!」
「…は、正さ…も、良いですか…」
「ん――ッ、ン!は、はやく…イけ、ばかっ!!」

掠れる声で暴言を吐きながら相手の髪を弱弱しく掴めば、苦笑と共に深いキスが降ってきた。
出しますね、と呟くような言葉と共に激しく突き上げられ、瞬間目の前が真っ白になり呆気なく自分が果てたのを感じる。
次いで中に熱いものが注がれ、うっすらと残った意識の中で中出しすんなと呟いたがすぐに消え去った。






***







「……さいあく……」


一ミリも動かないべとべとの体をソファに預けて正がそう呟けば、すみませんと物凄く落ち込んだ声が彼の背中越しに聞こえた。
180を超える巨体が縮こまっている姿を想像して、思わず苦笑いが漏れる。
ずっと守ってきた処女を失くしたのは確かにショックだったが、こうもしょげられると責める気にもなれなかった。
ただ嫌味は言っておこうと、だるい体を無理やり起こして正は治樹に視線を送った。


「ほんと、意味わかんねーよまじ…俺のバックヴァージンがお前に奪われるとか、」
「…すいません」
「いきなり指突っ込むし?そういうデリカシーねーからモテないんだお前は」
「……すいません」
「俺はタチなのに…ありえねーってほんとどうしてくれんだ」
「………責任は、取ります」
「…。……あっそ」


真剣に呟かれた言葉にドン引かなきゃいけない所で、少しだけときめいてしまったのは勘違いだと思い込もうとした。





end.



友達が学園もののゲームを作ろうとしていた時に練っていたキャラ達。
生徒会長は攻めだと言い張る彼女を何とかして説得しようと合宿の間に書いたもの…です…
副会長は長年カカカカタオモーイで抑えきれず襲ってしまった感じです。
でも会長も無意識下でずっと好きだったんだと思います(*‘ω‘ *)結局ばかっぷる


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