本日、2月14日。
外来からのイベントデー、バレンタインである。チョコレート製作会社の陰謀にまんまと乗っかってしまう『流行り』というものが大好きな日本人の性が如実に表れる日である。
天気は超快晴とは行かず、生憎のどんよりとした曇り空。であるにも関わらず空気は何だかピンク色の腑抜けたものが漂っている気がして、この男だらけの学園における生徒会長である、御堂島恭夜は――ハアアア、とそれはもう盛大な溜め息をついた。
そんな恭夜にのんびりとした声がかかる。

「どしたの会長〜、溜め息なんかついて。幸せ逃げるよ〜ん」
「篠山…お前、…近寄るな」
「ひどい!」

会長が辛辣だよう、と嘆きながらソファに体を埋める篠山に、現補佐である東條が仕方ありませんよと眉尻を下げて笑った。
何故なら篠山は今、その甘ったるい空気代表と言っても良い程の貢ぎ物に囲まれていたからである。可愛い子からの贈り物を断ったりはしない篠山、だからと言って生徒会室にまで持ち込むんじゃないと恭夜は頭を抱えたくなった。仕事をするやる気も削がれて来ると言うものである。

「「会長は甘いの苦手なのー?」」
「別に嫌いじゃねぇがここまでくると胸焼けしてくる…」
「学園中こんな感じですもんね」

双子の質問に答えた恭夜のうんざり、といった様子にウンウン頷きながら粗茶っス、と湯気を立てるそれを机においた翼にサンキュ、と軽く礼を言いながら体の向きをそちらに動かした瞬間、恭夜は何時もはない小さな小皿がお茶の横にあるのに気が付いた。
その上に乗っているのは、淡い緑色の一欠片のケーキ。


「…。ま…抹茶ケーキなら、好きかなあと…」
「………」


お盆で半分顔を隠しながら照れ臭そうに、心配そうに言う翼に、恭夜は無言で――彼の頭をわしゃわしゃと撫ぜた。抹茶ケーキは恭夜も大好きである。
流石は俺の補佐――否、今は副会長だ――、よく分かっていると嬉々としてフォークを手にとる恭夜に、東條の呆れた様な視線が注がれた。

「結局貰うんじゃないですか。それでは学園の生徒と一緒ですよ」
「うるせぇ、翼の作ったもんは貰う。知らねぇ奴からのがいらねぇんだ」
「贅沢ですね」

まあどうでも良いですが、と肩を竦める東條を尻目にほろ苦い甘味のある抹茶ケーキを堪能しつつ、恭夜はだがしかし、と思いを巡らせた。
恐らく今日は出歩けば面倒な事態になる事は必須だろう。去年はバレンタインである事を忘れて普通に登校した結果、とんでもない鬼ごっこが発生してしまった。もうあんな恐ろしい目にあうのは御免だ。と、言っても恐らく明日登校してみたところで、彼の机がお菓子で覆い尽くされているであろうことは明白なのであるが。
何が入っているか分からないものを食す訳がないと言うのに、皆大した根性である。一生懸命作ったんだから〜などという理由で食べなければならないと思うほど恭夜は出来た人間では無い。



仕方がないから今日は仕事をしていよう――そう考えた恭夜は、未だ湯気をたてるお茶をずいっと一気に飲み干し、満足げにフォークを置いた。




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