「駄目だなあ、慎哉。お前じゃなけりゃあ百点満点の展開だったが、お前だったら駄目だ。何てったって浮気は良くない、そうだろう?」


不意に耳元で声がした。嫌になる程に聞いた、奴の声。
驚いて振り返る前に、後ろから手が伸びてきてそのまま引き寄せられる。本日最大規模の悲鳴が上がり、次いで役員らの唖然とした顔が目に映って、顔が羞恥で一気に染まった。
畜生こいつ、こんな大勢の前で!

「っ離せこの野郎…ッ何しやがっ」
「んー?慎哉、この転校生君に惚れたか?浮気は駄目だな、俺はただお前と転校生君がきゃっきゃしてるのを見たかっただけなんだ。気持ちまで持ってかれたら可哀想だろう?俺が」
「っはぁ!?誰が惚れ…っつーか何が浮気だ!そもそも付き合ってねぇ!」
「ツレねえなあ」


くつくつと喉を震わせて笑う良平が、目線を転校生に変えたのが分かった。俺を離さないまま引き摺る様な形で、彼に近付いて行く。ちょ、おい離せよマジ。役員が目ン玉溢しそうな勢いで凝視してっから。
密かに暴れる俺を悠々と抱え込んだまま、糞野郎はテーブルに向かって歩を進める。自分に近付いて来ている事に気が付いた転校生は、黙ったまま良平を見詰め返した。

「…君が転校生の渡部翔護君、だな。良いねえ、強気男前転校生と見た。古き良き王道だな、嬉しいよ」
「…何言ってんのか分かんねぇんスけど」
「いやあ、こっちの話だ、気にしないでくれ。さてと、性格は好みだなあ…後は、そのカツラの下…なあ、見せてくれよ」
「は、…ッ!?」


良平の右手がゆらりと、揺れた。
それを目の端で捉えた瞬間目の前の転校生の頭が、ぶっ飛んだ。思わず息を飲んで、目を見開く。
――ぶっ飛んだのは頭じゃあなく、髪の毛――だと思っていた、カツラだった。
さら、と綺麗な金の髪が露になる。何だ、これは。つーか誰だ、こいつは。何でこの変態は、カツラだって分かったんだ?

やっぱりねえ、とやたら嬉しそうに呟いた良平が再び右手を上げて、今度は転校生の眼鏡を無理やり、と言って良い程の手つきで剥いだ。チッ、と鋭い舌打ちと共に男前な顔立ちが現れ、再び唖然。
―――食堂にまた、黄色い歓声が鳴り響いた。



「カッコイイねえ、渡部君。十分に合格。よし、そのまま頑張ってこの学園で生きてくれ。俺に萌えを与えてくれると良い」
「……はぁ……?…つか、何なんだよアンタ…何してくれんだ本当、最悪。平和に生きる予定だったのに、くそ」
「そう言うなよ、どう足掻いてもお前は王道転校生だ。お前の辞書に平和と言う文字はない!イケメンを次々と落として、いざこざに巻き込まれるのがお前の運命さ」
「……何なわけマジ……」
「あぁでも、転校生君。1つだけ、言っておく。そりゃ言うのは心苦しいし最攻略キャラとでも言うべき奴が既に外されているってのは俺としても悲しい出来事なんだがなあ、」



転校生の溜め息と鬱陶しそうな呟きをそれはそれは華麗にスルーしながら自身の話を押し進めていた良平は、不意に片手で羽交い締めにしていた俺をぎゅっと後ろから抱き締めてきた。
………は、何だこれ。


「…こいつはなあ、あげらんねえの、悪いな。何てったってこいつは、さ」


横から聞こえてきた阿呆みたいな言葉に鼻で笑いかけた、その瞬間。
視界が変わる。
あ?さっきまでアホ面した生徒会役員を睨み付けてた筈なのに、何だこの状態。首が痛い。何でかって、この変態に上を向かされてるから。
…上を、向かされて?





「―――俺の嫁、……だからさ」





低く、だがしっかりと通る声が、静まり返る食堂に落ちていった。

目一杯映る糞野郎の顔。一瞬の間の後に響いたつんざくような悲鳴がちょっくら別世界へと行きかけた俺の意識を無理やり連れ戻し、あぁこんな大衆の面前でこいつはキスまでやらかしたのかと、絶望と脱力感でいっぱいの気持ちになる。
何だよこの小芝居は。誰が、誰の嫁なんだ!!
そう心の中では罵倒しながらも、俺は若干諦めかけていた。



逃げられない。
この変態からは、どうやっても。



恐らくそれは、あの日こいつと出会ったその日からきっと、決められていた事に違いない。そうじゃなけりゃあやってられないだろう。
何て可哀想な俺。誰か助けてくれよ、本当に。なんて味方が自分しかいねぇなんて事は、これまでの経験でよぉく分かってんだが。



「いきなりのろけられても…」と呟く転校生を尻目に俺は、とにもかくにもこの至上最悪の糞変態野郎の魔の手から脱出するべく、黄色い歓声の中1人奮闘する事に決めたのだった。





end.


腐男子攻めを書きたかっただけ!後最後の台詞を言わせたかっただけ!
鬼畜に見せかけてのゲロ甘溺愛っぷりと流され俺様会長です^O^
この後は会長と転校生は良き相談相手になるに違いない。



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