運動神経は人並み勉強は中の下、顔はまあ自分の基準から言ったら中の上辺りには居て欲しい位で性格は何と言うか、ヘタレ。ってよく言われる。
そんな俺でも誰にも負けないところがあります。それはなんぞや、と聞かれれば。



運の悪さ。




「……嬉しくねええええええ!!!!!」
「うっせぇぞボケナスビ、さっさとこの問題解きやがれ」
「あっ、さーせん」

頭を抱えて叫んだ俺に辛辣な言葉が突き刺さる。
いや、勉強教えてもらっておいて違う事を考えている俺がいけないわけだけど、もうちょっと言い方ってものがあるんじゃないですか。ナスビて。…ナスビて。
目の前で普段は掛けてない眼鏡を押し上げつつ(くそ似合うな畜生)教科書を眺めているイケメン、こいつの名前は吉田智也。よしだともや。トモって呼ぶと、怒る。何でだ。
ギリギリ平均点の半分、つまりは赤点を上回っていた俺の国語の点数が前回の中間で遂に赤点テープを切ったので、学年で5番目に頭の良いこいつに俺の部屋で教えてもらっている次第です。ちなみに寮です。
顔も良くて頭も良いって、何なの。ムカつく。腹立つ。いや俺だって数学とか日本史とかなら結構イケるんだけれども、国語だけはどうにも。情緒とかそんなの分からない。分かりまテン。帰れまテン。あ、俺の部屋だった。

「…お前、考えてねぇだろこのカス!!ふざけてんだったら鼻フックかますぞこのボケが!!!!」
「ぎゃあっすいません考えますちゃんと!でも俺このA子ちゃんじゃねーから分からないよ気持ちが!」
「そんな阿呆な事言ってっからおめーは国語の点数が悪いんだ!!!」
「知ってるよそんな事はすでに!!何とかしてくれよ智也アアアアア」

泣きついたらサクッと教科書が頭に突き刺さった。地味に痛いっス。
とにもかくにもやらなければ終わらないっつー訳で、俺はまた健気にも教科書のA子ちゃんと心の会話をする事にした。そしてここで気付いた、俺筆箱すら出してない。やる気あんのか自分。
のそのそとシャーペン出して、あれシャー芯入ってない。予備のシャー芯も無い。あー、早速運が悪いです俺。用意が悪すぎるだけの問題?きっとそれもある。

「智也、シャー芯ちょーだい」
「一本百円。そっから取れ」
「たっかっ!!!!」

ぼったくりの勢いの金額を言って彼が指差す先には、2Hのシャー芯が入ったケース。俺普通にHB派なんですけど…2Hって、固くね?
しかしそうは言っても背に腹は代えられないわけで、丁重にお借りする事にした。そん時ちょっとダラダラして取ったのがいけなかった、俺の伸ばした右手が机の上に置いてあった水の並々入ったコップに当たって、あーって思う間もなく。

ばしゃん。



「……NOOOOOOOOOOTEEEEEEEEE!!!!!」
「ぶはっ」

あ、笑った。可愛い。じゃなくて。

「ちょおおお俺のノートびしょ濡れえええタオル!!!ターオール!!!!智也なんか濡れた!?」
「あー?濡れてねぇ。お前のノートだけ見事にびしょびしょ」

けらけら声をあげて楽しげに笑う智也を恨めしげに睨んだ後、慌ててタオルを洗面台まで取りに行く。
いつも俺に不幸な事があると智也はめっちゃ楽しそうに笑う。いや、普段そういう笑顔あんま見ねーから、嬉しいと言えば嬉しいんだけど…いややっぱり腹立つな。
なんて悶々と思いながら滑りやすい廊下を走ったのがいけなかった。後裸足じゃなくてソックスだったのもいけなかった。だって冬だし寒いんだから仕方がないじゃない!


「…っあだぁ!!??」


滑りました。つるーんと、綺麗に右足が滑って、そのままお尻でズッドーンと着地。めっちゃ痛い。
ジンジンするケツを押さえてもんどり打ってたら、智也がひょこりと向こうの部屋から顔を出した。俺の姿を見るなり、噴きだす。ちょ、失礼すぎるだろう!

「ぶっふ、おま、ははっ、間抜けヅラ!!」
「……うっせぇわい!!!どーせ運がないよ俺は!!」

指差して爆笑する智也に、半泣きの俺。いつもの図。
まあもう分かってるんだ、俺が運が悪いなんて事。だって犬も歩けば棒に当たるじゃないけど、道を歩けばうんこを踏む。ってこれいかに。
踏むならまだ良い方で、時には鳥の糞が空から落ちてきたり、なんか超怖いお兄さんに絡まれたり、鞄スられたり痴漢に間違われたり。珍事件の無い日なんて無いわけです、俺の日常。なんて素敵な非日常、なんて、もううんざりだ。

よっこいせと腰を押さえながら立ち上がる。前を向いたら、智也はすでに部屋の中に戻っていた。なんて薄情なんだ。
のろのろと足を動かして扉を押しあけたら、上機嫌な様子で教科書を放り投げていた。ちょ、勉強終わりっスか。俺まだ一問も解いてない。
びっしょびしょのノートを摘みあげて、思わずため息をつく。良いけどね、1ページしか書いてないし。ただパラパラ漫画の傑作が消えうせたけれど。


「おい、腹減った。何か食いに行こうぜ」
「えええ…やだよまた何かあるもん怖い怖い」
「不運はお前のアイデンティティだろ。んな事言ってたら引きこもりになるぞお前」
「他人事だからそんな事言えるんだ!もうヤダ俺、何でこんな運悪いんだろ本当」


机の上をキュッキュと拭きながらそう嘆いてたら、一瞬の間の後お前が運悪くなかったら一緒にいねーよと後ろから声が聞こえた。…え、あれ、なにそれ。
思わず振りかえる。ソファの上で我が物顔のまま寛いでいた智也は、俺が見ている事に気がつくと口元を上げて笑った。あ、その顔好き。可愛い。世間的に見たら格好いいだけど、俺的には可愛い。重症だ。

「え、智也、俺の運悪いとこ好き?」
「嫌い。一緒に居ると楽しいぜ」

矛盾してます奥さん。これもいつもの図。智也は天の邪鬼だから、思った事と反対の事を言う時がある。最初の頃は大分戸惑った、けど今なら本音の方が分かる。愛のなせる技だね、って言ったら鼻で笑われたけど。



「好きなんだ」
「大嫌いだよばーか」



大好きって事ですね分かります。あー可愛い。本当、俺重症。自分で分かってるから許して欲しい。
真正面から抱きついたら俺の胸辺りで重い、とくぐもった文句が聞こえた。聞こえない振りしておでこにキスしたら、今度は気持ち悪いって言われた。おっとこれは本音だ、傷つく。


でも智也のお陰で自分の不運さがちょっと好きになれたので、今日の所は良しとしておこう。
多分今まで話してきたどの人間よりも面倒くさい性格の智也に会えたのが俺の人生一番の幸運なのか、それとも不幸なのかは、これからの俺が決める事。
とりあえず今はイケメンの顔を一番の特等席で拝む事にしよう。




(なんて思ってたけど1分後には突き飛ばされた)
(照れ屋なのは可愛いけどちょっと暴力的すぎやしないかい!)




end.



普通の高校生からちょっとズレた二人のお話。
相思相愛の筈だけど全くそう見えない。ちなみに共学校。
即席ですけど楽しかった!って言うか主人公(?)の名前出てない。



>>>back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -