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「……Fクラス?」



ぽかんと口を開けてこちらをまじまじと見てくる宮村に、恭夜は何か可笑しいかと軽く頷いた。他役員だけでなく原田と前田でさえ驚いた様な顔をしているが、これは当たり前の処置だと思う。
当の本人である東條も今初めてクラス落ちの話を聞いたが、一度肩を震わせただけで後は何も言わずにただ、真っ直ぐに前を見詰めていた。そんな彼を見て、恭夜は少しばかり満足げな笑みを見せる。
が、反対に宮村は眉尻を下げてちょっと、と呟きながら恭夜を見た。


「…F…ってのは、落ちすぎじゃね?副会長さんがいきなりそこまで落ちたら色々大変なんじゃ…」
「何言ってやがる、これは処罰だ。簡単に終わってどうする、大変なのは当たり前だろ。元々退学が妥当なんだから、これでも結構甘い方だ。せいぜいむさい不良共と仲良くしてろ」
「……一言余計ですよ……でも、一理ありますね。宮村君、気にしないで下さい。私は、少々頑張らないといけないので」


恭夜のむさい不良共と、の部分に若干顔色を悪くしながらも、未だ渋い顔をする宮村に東條は静かにそう言った。
上品な暮らしをしてきた東條がFクラスに馴染むのは並大抵な事では無いだろうが、彼は気丈に振る舞う。いざとなれば南もいるしへこたれる事は無いだろうと、恭夜も考えた上での判断だった。
東條のその言葉に、副会長がそう言うなら良いけど、と肩を竦めながらやんわり引き下がる宮村を見た後、恭夜は口を開く。


「まぁ、宮村の件だけでなく職務放棄の事もあるしな。それ言うと萱嶋も、後おまけに篠山にも罰与えなきゃなんねぇんだが……そうだな、夏休み最初の一週間、校内の草むしりとか」
「「えぇぇー!?」」
「ジョーダンでしょ会長〜」

意外なところで自分達の名前を出されて、それまで黙っていたのに思わず声を上げた三人。だが、何か文句でもと恭夜からじろりと睨み付けられれば反論する術は無い。東條もちゃんと、償うと言っているのだ。しかも自分達よりずっと重い罪を。
三人は顔を見合わせると、渋々ながらも頷き、はぁいと声を合わせたのだった。




そんなこんなで長い話に一段落ついたところで、恭夜は小さく、悟られぬ様に息を吐いた。拗れた問題を解決するのに、本当に随分と時間がかかったと思う。
そうして数秒の後、瞼を閉じてから、ゆっくりと顔を上げて―――宮村と原田、前田を見やる。
椅子に座っていたその腰を上げると、静かに声を発した。


「…東條の行動には、生徒会全てが責任を負っている。本当に悪かった、俺の監督不届きだ。始末は俺達がちゃんとする、……こいつを許してくれとは言わねぇが……ただ、…これから頑張る事だけは、認めて欲しい」


頼む、と。
ゆっくり頭を下げた恭夜に、東條は思わず目を瞠った。謝られた宮村は会長にまで頭を下げさせてしまったと少し慌てたが、原田と前田は無言で互いに目を走らせる。すぐに目線を外し、恭夜にそれを移す事も無く、そっぽを向いた。

「…許すつもりなんか端からねぇ。けど、リコールした後はもうこいつの事なんざ知らねぇよ、勝手にしろ。目の端に映ったら睨み付ける位の事はするかもしんねぇけど」
「まぁ、頑張ってマトモな人間になれれば良いよな、東條サン」

原田の突っぱねた悪態、前田の少々嫌み混じりの言葉に宮村が冷や汗をかきつつ、冗談デスよと苦笑いをする。それにすかさず冗談じゃない、と彼の両隣からツッコミが入っていたが。
そんな風にぎゃいぎゃいと騒ぐ三人を目元を緩ませて眺めていた恭夜は、さてと、と自らを切り替える為、静かに独り言の様に呟いた。ぐるり、振り返ると生徒会役員の姿が見える。
彼等に向き直りながら恭夜は、どこか厳しい顔つきのまま仁王立ちで、口を開いた。


「やる事がめちゃめちゃ増えた、働けよお前等!俺は明日委員長集めて今後の生徒会をどうするか決める、その為の書類作りに連絡も回さなきゃなんねぇ。萱嶋は前期の現段階で残ってる書類処理終わらせろ、分かんねぇもんは横に退けとけ。篠山と翼は全校集会の準備な、風紀んとこ言ってちゃっちゃと指示仰いで来い、黒井が大部分を進めてくれてる筈だ。あー、後は東條!…お前は、俺を手伝え」


矢継ぎ早に飛んでくる指示に何時になく真面目な顔でうんうん頷きながら聞いていた役員達は、最後の言葉にびっくりした様に恭夜と、東條を見た。自分がリコールされると言うのにその仕事を手伝えとは、何とも皮肉な事を言う。
が、東條は一度瞳を瞬かせた後、恭夜と同じ様に不敵に口端を上げて、言った。



「了解しましたよ、…会長」



その返事を聞くと恭夜は頷き、南の方を向いた。宮村を保健室に連れていく様に言うと、任せとけと軽く笑う。最後に宮村にもう一度大丈夫なのかと問うと、にこりとしながら頷いた。
その後、車椅子を押す南に原田と前田もとことこついていくのを見送ってから、恭夜は自身に気合いを入れる。



解決すべき事はまだ終わっていない。
話し合いが終わろうと、理想を幾ら語ろうと、その為の仕事をしなきゃあそれは成し得ないのだ。成せば成る、成さねば成らぬ、何事も。恭夜の座右の銘である。
それに加え彼がやろうとしていることは、未だかつて無かった事。反対も多いかも知れない。だが、東條がまた立ち上がる為ならば何だってしようと、恭夜は一人心に決めていた。



最高の策は出来ないかも知れないが、自分が考えうる限りの最善の策を、自分の最高の力で。



「会長っ、そういや理事長に話通すのっていつー!?夜はあの人ホストクラブ行ってるらしいよ〜」
「あぁん!?チッ…あのカマ野郎、教育者の自覚あんのかよ!」
「「かいちょーかいちょー、僕らの赤ペン無いよどーしよー!」」
「は!?お前ら自分で持ってきてねぇのかよ!机の引き出しの中に、」
「会長おおおお放送委員に最終日の事伝えてましたっけ!!伝えて無いなら今すぐ行かねぇと、」
「…あぁあー悪ぃ言ってねぇ!翼行ってきてくれるか?」
「会長、パソコン起動出来ましたが。始められますか?」



てんやわんやの大騒ぎ、生徒会室がこんなにも賑やかだったのは何時ぶりだっただろうか。そんな事はもう、今となってはどうでもいい事なのだが。しかし妙に感慨深いところがある。
そんな事を考えながら恭夜は、パソコンの前に座りながらこちらを見てくる東條を振り返り、頷いた。




「始めんぞ、…時間なんざ全くねぇんだからな!」






全校集会。
最後の戦いの日まで、後2日。




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