「そういや、あの転校生。散々噂になってっけど、大丈夫なのか?」



保健室までの道のりを二人でたらたら歩きながら、南がふと思い出した様に言った。

転校生。その言葉が出た瞬間、思わず苦虫を潰した様な顔になる。今聞きたくない単語No.1だ。
そんな俺の微妙な、いやもしかしたらかなり分かりやすい変化にすぐさま気付き、どうかしたのかと南は聞いてきた。さっきの事は話したくもないが、まあこいつとの間に隠し事はしないってのが暗黙のルールとしてある。
……仕方がない。
ここ2週間程の事をかいつまんで説明すれば、南は一気に険しい表情になった。特に役員が仕事をしなくなった、ってところで。折角の美形が台無しだぜ。


「あいつらが惚れたらしいってのは聞いてたけど、そこまで酷いなんてな…お前、何で俺に早く言わねぇんだよ」
「何処にも居なかったろうがお前。捕まらなかったんだよ」
「メールでも何でもすりゃ良かっただろ。次からちゃんと言え」
「…多分な」


右手をヒラヒラさせながら適当に答えるとまた溜め息が聞こえた。一々伝えるの面倒臭ぇんだよ。
なんて事を話しつつ歩いていれば、俺の鬼門である保健室に着いてしまっていた。この前に立つといつも自然と眉間に皺が寄ってしまう。
準備が出来る前に南が扉に手を掛け、ギンちゃ〜んなんて暢気な声を上げながらガラガラと先に入っていった。
…お前そいつといつそんな仲良しになったんだ。
「お、みーくんや〜ん。どうしたん、遂に肺ガンかいな」
「うっせ、まだくたばんねーよ。用があんのは俺じゃなくて、あいつ」
保健医と軽口を叩き合いながら南が俺を振り返った為、俺は嫌々ながらも一歩部屋の中へと足を踏み入れる羽目になった、途端。

「ちょ、恭ちゃんやん!!!!!なんやどないしたんっ、あっまさか俺に会いに来たんか!?いやあああん遂にこんな日が来るなんて!!!銀二か・ん・げ・き☆」
「黙れウザいキモい死ね」

あり得ねー事をベラベラ喋りつつ自己完結しようとした糞保健医に鋭い突っ込みを入れる。何で俺がテメェなんかに会いに来なきゃならねぇんだ、ふざけんな。
死ねなんて酷いわぁ、とか言いつつよよよと泣き崩れる相手に心の底から殺意が沸くわ。誰かこのエセ関西弁野郎を即刻解雇しろ、いやむしろ何故雇った。
「…だから嫌だっつったんだ」
「まぁまぁ」
むすっとしながら呟いた言葉に、南は苦笑いを浮かべて俺を宥めた。当の馬鹿は未だに泣いてるフリをしている。
大して長くない黒髪を後ろで一つに結っている、自称年齢不詳(実際は24歳)の変態保健医。四谷銀二は、俺の最大の敵だった。
どこを気に入られたんだか分からないが会う度にセクハラまがいの事をされる。殺してやろうかと思ったのは一回や二回じゃねえ。
顔だけは見りゃあ美形の部類に入るらしいから、他の生徒には人気あるみたいだけどな。理解出来ない。
そんな事を考えていたら、四谷はさっさと勝手に立ち直っていた。椅子に座り直し、にこにことこちらを見て口を開く。


「ま、冗談は置いとくわ。ほんま珍しいなあ、具合悪いん?」
「………別に、」
「ギンちゃんこいつ働きすぎで疲れてんだよ。何か薬ないか?」



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