打ち込み作業なら自分でも出来ると言い張る翼の熱意に負けて少しだけ生徒会室を奴に預け、俺は気分転換に屋上に来ていた。この時間なら、あいつが居る筈だ。



タンク上に登ってみれば、流れてくるよく知った紫煙の香り。顔を出した俺に気付いた相手はふわりと笑って、よう、と短く言葉を発した。軽く返事をしながら隣に腰を下ろす。
「どうした、お前から来るなんて珍しいな。何かあったのか」
「翼が休めってうるせーんだよ」
溜め息混じりにそう言えば、相手―――俺の幼馴染みである鹿川南は、成る程なと短く笑った。
さりげなく煙草を床に擦り付けて消していたのは、苦手な俺に対する配慮。まあ南のヤツなら臭くねぇからそこまで嫌いじゃねーんだが。そういう気配りが出来る奴だ。


「翼は優しーな」
「あぁ、…」
「「不良だけどな」」


俺と彼の言葉が重なり、思わず二人で吹き出した。肩の力が抜ける様な気がして、気持ちが良い。こいつと話すといつもそうだった。
ガキの頃から一緒にいる存在。空気の様にそこに居て、金持ちである事なんて鼻にかけず、何時だって俺を親友だと言ってくれる。
さっきまで苛ついていた気分が毒気を抜かれた様になくなり、小さく息を吸い込んだ。と、いきなり南が顔を覗き込んできて一瞬ビビる。近ぇよ馬鹿。
「な、んだってんだ、離れろ」
「…お前、調子悪いんじゃねぇか」
「ああ?」
眉間にしわを寄せながらそう聞いてくる相手に思わず顔をしかめる。翼にも言われた事だ、そんなに酷い顔してるか?自分じゃよく分からねぇな。
そう言えば南は軽く溜め息をつき、立ち上がった。何処に行くんだと目で問う。
嫌な予感がする、おいあそこには行かねぇぞ絶対。
そんな俺の心の声が届いてるんだか届いてないんだか、南は当たり前という口調でさらりと言った。



「保健室」
「嫌だ」



案の定告げられた言葉に間髪入れず返す。途端、お前ねーなんて呆れられた様な声で息をつかれた。
無理、マジ無理。あそこの保険医は本当に苦手だ。と言うより嫌いなんだ。っつーかそんな所行く程体調が悪い訳でもねぇ。
「恭夜、我が侭言うな」
「言ってねぇ!お前はあいつの変態具合を知らないから――」
「はいはい行くぞ〜」
「聞け!!!!!」
無理矢理立たされそのままズルズル引っ張られる。首根っこを掴まれて苦しい、ふざけんなこいつ殺す気か!

「お、い南…ッ、くび、首!」
「ん?大人しく行くか?」
「――チッ、行く、から…離せ!」

盛大に舌打ちをしながらそう言えば呆気なく手は離れていった。
軽く咳き込む俺にじゃあ行くかとにこやかに告げる相手を殴ってやろうかと一瞬考える。この俺にこんな真似して許されるのはお前位だって事を覚えとけよ畜生。





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