期末テストが終わって、一週間経てば夏休み。天国。現在、期末テスト一日前。

―――地獄。



「…別に、お前頭良いんだからそこまで必死になる事もねぇだろ。そのままで十分10位以内いけると思うけど」
「いけるか馬鹿が!天才肌のお前と一緒にするんじゃねぇ!!」
「褒めるなよ」
「うるせぇこの天然馬鹿!!!」

暑さでイライラ。切羽詰まってイライラ。
南が隣で俺の勉強を見ながら呟いた言葉は全く真実じゃあない。俺が今まで10位以内をキープしていたのは最低でも5日前からはテスト対策をしていたからであり、何もやらずに挑んだらとんでもない結果になる事は目に見えている。しかも今期はほっとんど授業に出てねぇから更にヤバい。奨学金は成績の良い人間にしか与えられないから、俺にとっては死活問題なのだ。
問題を解けばそれで良い数学や英語は公式や構文を覚えればいけるかも知れないが、世界史みたいな完全暗記系は何処が範囲なのかも昨日まで知らなかった。死にたい。
何もやっていなかったのは俺だけの様で、他の奴らは早々にテスト勉強を始めていたらしい。篠山なんか余裕の態度で、「俺勉強しないから生徒会の仕事任せて〜」なんて言っていた。今回ばかりは厚意に甘えたいが何となく負けた気がする。

「フランス革命…1789年…?せん…」
「『ひなんばくはつ』で覚えると良いぜ」
「……おぉ。成る程な」

南の言葉に頷きつつ、ノートの片隅にメモをとる。授業免除の特権は無いが南は俺と同じ位サボってる筈だ。何故それでいつもほぼ満点がとれるのか分からない、まぁ万年一位は黒井だが。
教えるのも上手い南にちょこちょこ口を挟まれつつ結局午前中に3時間程勉強した後、とりあえず休憩を挟もうと床にごろりと寝転がった。ちなみにここは南の部屋。
と、その時。


ばぁん!


「「かいちょー勉強終わったー?」」
「終わるか畜生が。帰れ」
「「何かイライラしてるー」」
双子がいきなり、乱入してきた。面倒くさい、と顔を歪めれば頑張れーとキャイキャイ笑われる。人の不幸を笑いやがって…腹が立つな、忘れていた俺が悪いのかも知れないが。
「お前等は勉強しないのかよ」
「「ちゃんとしてるよー今休憩中」」
「あっそ。それにしても腹減ったな」
欠伸を噛み殺しながらそう呟くと、双子にじゃあ食堂に行こうよ!と腕を引っ張られた。何でいきなりなついてるんだ…嫌われるよりはマシだが、服が伸びる。止めろ。

しかし、食堂か。

「行っても良いんじゃないか?もう大丈夫だろ。美味いもんゆっくり食えば良い」
「…そうか?」
俺の考えている事を察しそう言ってくる南の言葉に軽く小首を傾げつつ、まぁ良いかとゆっくり腰を上げる。南は生徒会専用ブースには行けないから自炊で済ませると言う。まぁ、例外を認めるのは面倒くせぇ事になるっつーのは実感したからな…仕方ない。しかしお前。

「料理下手くそだろ」
「ぐっ…れ、練習するんだよ!」
「「みーちゃん料理下手なの〜?」」
「下手じゃない!…苦手なだけだ」

ぼそりと付け足す様に言う南に笑い、とりあえず後でな、と言いつつ彼とは別れ、俺と双子は部屋から出た。何でも人並み以上に出来る彼の唯一苦手なものが、料理。南の作るもんは見た目は綺麗なくせに、味がすこぶる微妙なのだ。摩訶不思議。
そんな事を考えながら歩いていく中、双子は周りをちょろちょろうろつきつつ楽しげに交互に問題を出してくる。
「次!フランス革命の、ジャコバン派の代表の人は誰でしょー」
「あー……ロベスピエール」
「当たり!じゃあ僕は誰でしょー」
「……海翔」
「「あーたりー!」」
キャッキャと騒ぐ二人に溜め息をつきながら、食堂へ向かう。何やら吹っ切れた様子の二人は誰とでも楽しそうに話すようになり、前の捻くれた感じが無くなったのは喜ばしいが如何せん、うるせぇ。
生徒達がまた黄色い声を上げてこちらを見てくる様になったから、それも合わせて実にうるせぇ。
髪の毛をガシガシと掻き上げつつまた小さく欠伸をしていれば、えー…空翔か、が思い出した様にそう言えばー、と口を開いた。

「楓が会長に会おうとしてたよー、話があるんだって」
「あー言ってた言ってた。会長色んな所に居るから見付からないって」
「……話ぃ?何のだよ」
「「知らなーい」」

訝しげに眉をひそめる俺に双子は首を振るだけだった。…まぁ何だかよく分からないが、最近立花の噂は余り聞かない。相も変わらずファンは多いみたいで、いよいよ親衛隊も発足する勢いらしいって事は篠山が頬を膨らませながら言ってたが。何があったのかは知らないが以前の様に猪突猛進で突き進む事は止めたようで、まぁ面倒事が少なくなってきてるのは喜ぶべき事だ。
そんな事を考えながら、俺はふと『彼』の事を思い出した。



(………東條は、)



今、何をしているんだろうか。
流石にテストは受けるだろうからクラスで会うとは思う。あいつとは出来るなら夏休み前に一対一で話をしたい、長期休みに入ると色々面倒だからな。
双子も東條の考えている事は余りよく知らないらしい。ただ空翔は、『副会長は僕と似てるよ』と呟いていた。その真意はよく分からないが、兎に角彼は彼なりの考えがある筈だ。何とか話をしたいとは思うが、当の本人が見付からないのならば話にならない。

やっぱりテスト後に引き摺っていくしかねぇか、と俺がぼんやり思っていれば、食堂についた。
色めく生徒達の声は聞き流し、とりあえずテスト勉強の為に腹ごなしをしなきゃあなと気分を切り換える。





―――この時の俺は、まだ分かっちゃいなかった。
自分がどれだけ、呑気だったかを。






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