39





体育祭は無事に、とは言えないがとりあえず大したこと無く終える事が出来た。
MVP発表の時に実行委員がうっかりフルネームで呼んだものだからキレた鬼島が暴れかけたが、黒井の迅速な食べ物作戦で事無きを得た。
さっきまでの騒々しさが無くなった校庭からは既に様々な機器やテントが撤去され、何だか物悲しさを醸し出している。そんな雰囲気を一人目を細めて眺めつつ、俺は息をついて近くの石段によっこらと座り込んだ。

生徒達は今頃、自身のHRで未だ興奮しながら話で盛り上がっている事だろう。満足げな彼等の姿を見て、俺と他の奴等の努力は決して無駄なものでは無かった事をじんわりと理解した。トップである事はやはり大変だが、それ以上に得られるものが大きいと思う。だからやってるんだが。
ジリジリと照り付ける太陽にパタパタ手で自身にぬるい風を送りつつそんな事を考え、俺は再び小さく息をつく。その時、ガサリとした音が後ろから聞こえ、聞き慣れた声が掛けられた。

「恭夜。こんな所にいたら、熱中症になるぞ」
「……南」

俺を探していたのか少々汗をかいている彼はほら、と冷えたスポーツドリンクを手渡してきて、そのまま俺の隣に腰かける。あちーな、とぼやきながら彼は口を開いた。
「いやー、色々あったな本当」
「…まぁとりあえずは終わったから、もう良いだろ。それよりあの本部のテントは本当にどういう事なんだ」
「あぁ、あれな。何か篠山から聞いたんだけどあっちも色々あったみたいだわ。ところでお前、鬼嶋と長谷川が義理の兄弟だって知ってたか?」
未だに信じられない、みたいな顔をしてそう言う南に軽く頷く。忘れてたがそう言えば鬼嶋が言ってたな。
南曰く、詳しい事はよく知らないらしいが借り物競争の時にその鬼嶋長谷川ブラザーズが何やらやらかしたんだとか。緊張の走る校庭にその後何故か感動が訪れた様だが、如何せん篠山の説明が全く下手くそでよく分からなかったらしい。

「感動、なぁ。何したんだかは知らねぇけど、それで?あの二人は?」
「鬼嶋は超いつも通り、商品の愛パッド早速ブッ壊してたな。長谷川はちらっとしか見なかったけど、何かぐりぐりされてた。他の生徒に」
「ぶっ」

あの長谷川がぐりぐりされているのを思わず想像してしまった俺は噴き出してしまった。とりあえず悪い方向に彼等の関係が向かっている訳じゃあないらしいので、良かったんだろう。
冷たいスポーツドリンクで喉を潤しながらそう考えて、ペットボトルから口を離す。一息つく俺の横で、南が遠くを見ながら、終わったなと小さく呟いた。それに俺は無言で頷く。色々あったが、終わった。萱嶋兄弟は今他の委員会の奴等にちゃんと謝りに行っているし、翼は元気になって後片付けに走っていった。


「……後は、」


東條だけか。
そう独り言の様にぼやく南。その言葉に数秒黙った後、俺はゆっくりとかぶりを振った。―――そうじゃねぇ。

「俺の目標は、東條をこっちに引き戻す事じゃない。それは最低限のラインだ、俺が目指すもんは他にある」
「……そうだったな」

柔らかく笑う南に頷き、俺はその場でごろんと横になった。東條に関してはどうするか全く考えてねぇ。今までほとんどは成り行き任せだったが、彼と和解しようと思うのならそれではきっと駄目だ。
「なぁ、ちょっと聞きたいんだけど」
「あ?」
小首を傾げてそう言ってくる南に僅かに眉をひそめつつ問い返せば、彼は大したことじゃあねぇけど、と口を開いた。

「…何で東條は、お前を嫌うんだ?最初は普通に仲良かっただろ、お前等」

(………)
彼の言葉に数秒間黙り、目を細めると、俺は知らねぇとぼやきながら体を起こした。適当に答えた訳では無く、本当に知らないのだ。
確かに東條とは、高1の終わり位までは仲が良く…と言うか、まぁ普通だった。鬱陶しい喋り方と髪型、それに少々女々しい部分の多い奴と思っていたが、彼自体はただ筋金入りのお坊っちゃまなだけ。クラスメイトとして、普通に良い関係を築いていた筈だった。

――何時からだろう。アイツの俺を見る視線に、何か不穏なものが混じる様になったのは。

何かをした覚えは無い。だが、もしかしたら俺は彼に何かをしたのかも知れない。今回の双子の件で学んだが、俺の見ている事が全てな訳じゃあないのだ。俺が正しいと思ってやっている事は、誰かにとっての間違いかも知れない。生きていく上で必ずぶち当たる壁だ。


東條との壁を、取り除くには。



「…アイツと、話さなきゃならねぇ」



ぼそりと呟いた言葉に南はぱちくりと目を瞬かせると、ゆっくり頷いた。東條と口で話し合っても何も解決しない可能性はあるが、やらねぇよりマシだろう。よし、と心を決めて顔を上げる俺に、南がそう言えばと口を開いた。


「明後日から、期末テストだけど」
「………、…………は!!??」




完全に忘れていた。






To be continued...



- 67 -


[*前] | [次#]


しおりを挟む

>>>目次

ページ:




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -